想像してみよう、関税で分断された世界を
米国ウィークリー 2019/5/21号
- 米商務省は5/15に、中国のファーウェイとその関連企業を「エンティティ・リスト」に追加すると発表。対象法人は米政府の許可なく米企業から部品・技術などを購入できなくなるが、5/13発表の中国への追加制裁関税「第4弾」(約3,000億ドル分の同国製品に最大25%の関税)と併せ、トランプ政権の対中国制裁が強化された。株式市場は5/13にNYダウで25,222ドルの安値を付けたが、利下げ期待再燃による長期金利低下、および関税引上げ発表後の影響も含む景気指標である5月ニューヨーク連銀製造業景気指数などが良好だったこともあり、底入れ期待が優勢となって5/17終値25,764ドルで引けた。
- 折しも、6/4に天安門事件から30周年を迎え、中国当局が全言語で「ウィキペディア」へのアクセスを禁じる措置に出ているとの観測も見られるように、共産党一党独裁の権力基盤を脅かす動きに敏感になりやすい時期である。この時期にトランプ政権が中国に強硬措置に出る背景には「客家(はっか)」と呼ばれる集団(漢民族の中で客家語を使用し、歴史的に共通の血縁・地縁をもって共同の生活様式・風俗習慣などで結ばれている人々)の存在も無視できない。客家人は、広東省、福建省、江西省、台湾、香港などに居住し、華僑(在外華人)人口の約3分の1を占め、その人脈はアジアの政財界に隠然たる勢力を誇っている。習主席は広東省の客家人からの強力な支持を得ていたことが今の地位を築く大きな要因にもなったが、昨年の憲法改正によって国家主席の任期制限が撤廃されたことに対して、客家人から快く思われていないという面もあろう。中国の権力基盤が必ずしも一枚岩では無いことは、今後とも要注意である。
- 5/16に発表されたウォルマート(WMT)の2-4月期決算は市場予想を上回る好決算だったが、米中の追加関税応酬に対して値上げで対応する強気の方針を示した。関税コストが物価上昇に反映されるかどうかについては、中国からの輸入製品に対する代替製品の調達に時間がかかるとしても、一時的には物価上昇が加速する可能性が懸念される。企業収益の観点では、価格転嫁が先行しコスト上昇が遅行すればプラスに作用しよう。一方で、金利上昇圧力やインフレ懸念が強くなり、株式市場にとってのマイナス要因にもなり得る。当初は前者要因が目立ち、やがて後者要因に押されることも想定される。現在の株式市場はFRBの利下げ期待から落ち着きを取り戻しつつあるが、関税コストが意識されやすくなる来月以降、新たな展開に直面する可能性も念頭に置きたい。(笹木)
S&P500業種別およびNYダウ構成銘柄の騰落率(5/17現在)
■主な企業決算 の予定
- 5月21日(火):ホーム・デポ、コールズ、TJX、オートゾーン、ノードストローム
- 5月22日(水):ロウズ、VF、ターゲット、アドバンス・オート・パーツ、アナログ・デバイセズ、Lブランズ、シノプシス、ネットアップ
- 5月23日(木):メドトロニック、ホーメルフーズ、DXCテクノロジー、インテュイット、ロス・ストアーズ、HP
- 5月24日(金):フットロッカー
■主要イベントの予定
5月21日(火)
- シカゴ連銀総裁、ボストン連銀総裁講演
- OECD世界経済見通し
- 中古住宅販売件数(4月)
- ユーロ圏消費者信頼感指数(5月)
5月22日(水)
- ニューヨーク連銀総裁、セントルイス連銀総裁講演、アトランタ連銀総裁会議で挨拶
- FOMC議事要旨 (4月30日-5月1日開催分)
- ドラギECB総裁、講演(フランクフルト)
- OECD閣僚理事会(パリ、23日 まで)
5月23日(木)
- ダラス連銀総裁、サンフランシスコ連銀総裁、アトランタ連銀総裁、リッチモンド連銀総裁がパネル討論
- 欧州議会選挙(26日まで)
- 新規失業保険申請件数(5月18日終了週)、新築住宅販売件数 (4月)
- ユーロ圏総合PMI (5月)、ユーロ圏製造業PMI(5月)、ユーロ圏サービス業PMI (5月)
- 独GDP(1Q)、独IFO企業景況感指数(5月)
5月24日(金)
- 耐久財受注(4月)
5月25日(土)
- トランプ大統領夫妻、国賓として来日(28日まで)-新天皇陛下に会見
5月27日(月)
- メモリアルデーのため休場
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
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