3つの「期待」再構築に向けた動きへ
米国ウィークリー2019年8月20日号
- 新たな「期待」が再構築されて株式市場が再び高値を目指す展開に向かうための土台作りとなるのだろうか。8/12週は10年債利回りが2年債利回りを下回る「逆イールド」懸念に翻弄される展開となった。8/14発表の7月中国経済指標(小売売上高、鉱工業生産など)およびドイツ4-6月期GDPの低迷などを受けて債券利回り全般が急低下したが、8/14の債券市場で2007年以来12年ぶりに同「逆イールド」が実現した。これが過去の経験則から近い将来の景気後退入りシグナルとして受け止められ、NYダウが急落して8/15に安値25,339ドル(8/9戻り高値26,413ドル)を付けた。8/16にはドイツや中国に対する景気刺激策への期待が強まり、10年債と2年債利回りの逆イールド解消を伴って長期金利が上昇。NYダウも25,929ドルの高値まで戻す展開となるなど落ち着きを取り戻した。
- 年初からの米国株式市場上昇を押し上げてきた要因として、①「米中合意」への期待、②FRBの利下げへの期待、③企業決算への期待という3つの「期待」が挙げられる。短期的に「不安・失望」との間で心理が振り子のように振れつつ、形を変えながら期待を繋いで全体を押し上げる展開だったと見ることができる。
- 8/1発表のトランプ大統領による対中追加関税については、好調な4-6月期企業決算を受けて株価が上昇・高値圏にある時期での発表であり、5/5に1-3月期決算明けで株価が高値圏にある中で対中追加関税が発表されたのと類似したタイミングと思われる。ただし、米中合意への期待では、現在は「失望」に振れており、協議の再開などを通じて時間をかけて「期待」を醸成する必要があろう。なお、トランプ大統領は8/13に追加関税の一部先送りを発表したが、株価下落を放置しない姿勢を示した点で株式市場に安心感を与えた面はあろう。
- FRBの利下げについては、米中摩擦激化によって景気後退入りリスクが高まることを通じ、市場ではFRBに対する大幅利下げ期待が生じよう。今後のパウエル議長発言や次回以降のFOMCに向けて期待が高まり易くなるだろう。
- 企業決算については、8/15にウォルマート(WMT)、エヌビディア(NVDA)、アプライド・マテリアルズ(AMAT)の5-7月期決算発表が行われ、消費環境の良さが続きそうなこと、および半導体メモリーの在庫調整前倒しによる市況回復が早まりそうなことなどが市場に認識された。7-9月期決算発表に向けて期待を高めていく展開が予想される。更に、決算発表が終わった企業は「自粛期間」明けの自社株買いが見込まれる。株価下支えの大きな要因となるだろう。(笹木)
S&P500業種別およびNYダウ構成銘柄の騰落率(8/16現在)
■主な企業決算の予定
●8月20日(火):ホーム・デポ、コールズ、TJX、ジャック・ヘンリー・アンド・アソシエーツ
●8月21日(水):ロウズ、ターゲット、アナログ・デバイセズ、キーサイト・テクノロジーズ、シノプシス、ノードストローム、Lブランズ
●8月22日(木):ホーメルフーズ、ギャップ、ロス・ストアーズ、インテュイット
セールスフォース・ドットコム、HP
■主要イベントの予定
●8月20日(火)
・イタリアのコンテ首相が上院で演説
・クオールズFRB副議長(銀行監督担当)講演
●8月21日(水)
・FOMC議事要旨 (7月30、31日開催分)
・中古住宅販売件数(7月)
・日米貿易交渉の閣僚協議(ワシントン、22日まで)
●8月22日(木)
・カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム(ジャクソンホール、24日まで)
・新規失業保険申請件数(17日終了週)
・マークイット米製造業PMI(8月速報値)
・景気先行指標総合指数(7月)
・インドネシア中銀政策金利発表
・ユーロ圏総合・製造業・サービス業PMI(8月)、ユーロ圏消費者信頼感指数 (8月)
・ECB議事要旨(7月会合分)
●8月23日(金)
・パウエルFRB議長がジャクソンホール会合で講演
・新築住宅販売件数(7月)
●8月24日(土)
・G7首脳会議(仏ビアリッツ、26日まで)
●8月25日(日)
・北朝鮮、先軍節
●8月26日(月)
・耐久財受注(7月)
・ダラス連銀製造業活動(8月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
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