米国株にインフレ再燃の暗雲 物価指数を警戒 S&P500の見通し
インフレ再燃が意識され米金利の上昇幅が拡大。金利上昇のリスクが米国株の重石となっている。S&P500は先週10日、一時100日線を下方ブレイクした。今週の物価指数でインフレ懸念が高まれば、株安の進行を警戒したい。
記事の概要
インフレ再燃の懸念が高まり、米債市場では10年債利回り(長期金利)が4.8%を視野に上昇している。金利の上昇は米国株の重石となり、S&P500は10日に一時100日線を下方ブレイクした。今週は24年12月の生産者物価指数(CPI)と消費者物価指数(CPI)が発表される。インフレの粘着性が確認される場合は、米株安がさらに進行することが予想される。S&P500の予想レンジは5,700-5,950ポイント。
目次
- 米消費者のインフレ期待が急上昇、利下げ期待は急速に後退
- インフレ再燃で米長期金利は4.8%が視野に、金利上昇リスクで株安進行
- 焦点は物価指数-PPIとCPI、インフレ懸念高まればさらなる株安も
- S&P500、今週の見通しと予想レンジ
アメリカ消費者のインフレ期待が急上昇、利下げ期待は急速に後退
米ミシガン大学が10日に発表した1月の1年先期待インフレ率(速報値)は3.3%と、昨年12月の2.8%から大幅に上昇し、昨年5月以来の高水準となった。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視する5-10年先の期待インフレ率も昨年11月の3.0%から3.3%へ上昇し、2008年6月以来の高水準となった。
1年先の期待インフレ率が上昇し始めたのが、昨年11月に行われたアメリカ大統領選挙の後である。この一連の動きは、トランプ政策が物価へ与える影響をアメリカの消費者が警戒していることを示唆している。
ミシガン大学調査 期待インフレ率:24年1月~25年1月
ブルームバーグのデータで筆者作成
インフレ再燃の懸念は米金利の上昇だけでなく、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待の後退要因にもなっている。
すでに1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ見送りは織り込まれている。ゆえに市場参加者の関心は、3月以降の利下げペースに移っている。レポート掲載時点での3月利下げ確率は22%台まで低下している。5月FOMCの利下げ確率も16%台まで低下し、今年前半の利下げ見送りの公算が急速に高まっている。
米利下げ確率の推移:3月と5月のFOMC
ブルームバーグのデータで筆者が作成
※OISに基づく予想確率 / 1月13日 午後12時時点 / マイナス=利下げ
インフレ懸念で米長期金利は4.8%が視野に、金利上昇リスクで株安進行
インフレの再燃が懸念され、米国の債券市場では10年債利回り(長期金利)が先週7日以降上昇幅が拡大している。10日の市場では4.786%まで上昇した。20年債と30年債の各利回りは5%へ到達する局面が見られた。
米金利の上昇はアメリカ株の重石となっている。月初来の騰落率をみると、今月6日までは強気相場にあった。しかし、米長期金利の上昇幅が拡大した7日以降、主要な株価指数の下落幅も拡大していることが分かる。特に中小型株の指数ラッセル2000の下落幅が拡大している状況は、金利上昇のリスクが現在の米国株のテーマであることを示唆している(下のチャート、赤ラインを参照)。
アメリカ株価指数の騰落率:月初来
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 基準日:2024年12月31日
焦点は物価指数-PPIとCPI、インフレ懸念が高まれば株安進行も
今週14日に24年12月のアメリカ生産者物価指数(PPI)、15日に同月の消費者物価指数(CPI)が発表される。いずれも市場参加者が注目する物価指数である。
筆者が注目しているのがトレンドを示す前年同月比である。ブルームバーグがまとめた市場予想では、PPIは総合とコア指数でインフレの上昇が続く見通しにある。一方、CPIの総合指数も同じく前月から上昇することが見込まれている。コア指数は4ヶ月連続で3.3%の予想にあり、総じてインフレの粘着性が示される可能性がある。
ミシガン大学の調査では、アメリカ消費者のインフレ予想が急速に高まっていることが確認された。この状況で今週の物価指数が消費者の予想を裏付ける結果となれば、米金利の上昇が続くだろう。金利の上昇リスクは株安が進行する要因となろう。
一方、物価指数が総じて予想以下となれば、利回りの面で投資妙味が増している米国債には短期的な買い戻しが入る展開が予想される。このケースでは、米国株の買い戻しを想定しておきたい。しかし、10日の米雇用統計(24年12月分)では労働市場の堅調さが確認された。トランプ政策、特に関税の強化はインフレの押し上げ要因である。これらの状況を考えるならば、一度火が付いたインフレ懸念がそう簡単に下火になる可能性は低いだろう。よってアメリカ株の上昇局面では、下で述べるレジスタンスラインでの反落を警戒したい。
米国の物価指数(PPI / CPI):2023年12月~2024年12月
出所:ブルームバーグ / 赤の棒グラフとドット:24年12月の市場予想
S&P500、今週の見通しと予想レンジ
今週のS&P500の予想レンジは5,700~5,950ポイント。金利上昇のリスクが意識されている状況を考えるならば、予想レンジの下限5,700ポイントのトライを意識したい。注目サポートラインを以下にまとめた。
・日足のMACDとモメンタムは、S&P500の弱気相場に勢いがあることを示唆している(日足チャート、黒矢印を参照)。100日線の下方ブレイクは先週10日の安値5,807をトライするサインとなろう。5,807の下方ブレイクは、5,700台へ下落するサインと捉えたい
・5,700台の攻防では、半値戻しの水準5,753と38.2%戻しの水準5,725の攻防が焦点となろう。後者のテクニカルラインの下方ブレイクは、予想レンジの下限5,700をトライするサインと捉えたい
サポートライン
・5,820:100日線(日足)
・5,807:1月10日の安値
・5,753:半値戻し(日足、24年9月11日の安値起点)
・5,725:フィボナッチ・リトレースメント38.2%(日足、24年8月5日の安値起点)
・5,700:予想レンジの下限(日足)
今週の物価指数でインフレ再燃の懸念がひとまず後退する場合は、S&P500の反発が予想される。CPI後に控える小売売上高(16日発表、24年12月分)で個人消費の底堅さが確認される場合は、景気の強気見通しも重なりS&P500は今週の予想レンジ上限である5,950レベルまで上昇する可能性が出てくる。この水準には今日現在50日線が推移している。注目のレジスタンスラインを以下にまとめた。
・予想レンジの上限である50日線をトライするサインとして、まずは5,880ポイントの攻防に注目したい。この水準はレジスタンスラインへ転換する可能性がある(45分足、赤ラインを参照)
・S&P500が5,880ポイントを完全に上方ブレイクすれば、半値戻しとフィボナッチ・エクステンション61.8%戻しの攻防が焦点となろう。後者のテクニカルラインの突破は、50日線をトライするサインと捉えたい
・本レポートでは45分足を掲載している。分足のストキャスティクスとRSIで短期的な相場の過熱感を確認したい。これらオシレーター指標が買われ過ぎの水準でデッドクロスへ転じる場合は、S&P500の下落を意識したい。特に下で取り上げているレジスタンスラインの攻防でデッドクロスが確認される場合は、下落の可能性を強く意識したい
レジスタンスライン
・5,952:50日線(日足、1/10時点)
・5,939:フィボナッチ・リトレースメント61.8%(45分足)
・5,914:半値戻し(45分足)
・5,800:レジスタンス転換の可能性あり(45分足)
S&P500のチャート
日足:2024年7月以降
出所:TradingView
45分足:1月6日以降
出所:TradingView
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