テスラの運転支援にリスク　36万台をリコール　株価は約6％下落

6米道路交通安全局（NHTSA）は16日、米電気自動車（EV）大手テスラ (All Sessions)の運転支援機能「フル・セルフドライビング　ベータ（FSDベータ）」の安全性に問題があるとして、テスラが36万2758台のリコールを行うことを明らかにした。運転者が介入しなければ黄色信号でも交差点に進むなどの問題があるという。テスラ株は1月に入って上昇を続けてきたが、16日の取引では6％近い下落となった。

「完全自動運転」とはいえない機能

NHTSAがホームページに掲載した報告書によると、FSDベータはハンドルやブレーキ、アクセルの操作を支援する機能。走行中は人間が運転の主体として、ハンドル操作などを注視し、必要に応じて介入せねばならない。「フル・セルフドライビング（完全自動運転）」と銘打っているものの、運転を完全に自動化するものではないといえる。

NHTSAは報告書で、FSDベータの運転支援について、黄色信号の交差点への進入のほか、一時停止標識への対応、制限速度の順守、一部の車線の変更で問題があると指摘。「交通法令に違反するおそれがあり、運転者が介入しなければ衝突事故につながるリスクが増す」としている。

NHTSAは1月25日にテスラに対してリコールを要請。テスラは2月7日に自主的なリコールの実施を決めた。今回のリコールの対象となるのは、2016年9月から2023年1月にかけて生産されたモデルSなど4つの車種。テスラは数週間以内に該当車両のソフトウェアのアップデートを無償で行う。NHTSAはアップデートで、FSDベータが改善されるとしている。

マスク氏は「リコール」に不満？

マスクCEOはツイッターへの投稿で、ソフトウェアのアップデートをリコールと位置付けることについて「時代遅れで、完全に間違っている」と書き込んだ。今回のリコールを受けて、テスラ株は16日、前日終値比5.7％下落となる202.04ドルで取引を終えた。

テスラ株はこれまでも上昇と下落と繰り返してきた。2021年11月にはEV普及への期待を背景に、400ドルを超える水準まで値上がりしたが、2022年は一貫して値下がりし、年間の下落率は65％に達した。米国での金利上昇が自動車ローンの負担増につながることや、中国のEV市場での競争激化などが懸念された結果だ。また、イーロン・マスクCEOがツイッターの買収で多くの話題を提供し、テスラの経営への関心が薄れているともみられていた。

ただ、テスラが今年1月早々に大幅な値下げに踏み切ると、株価は急反転。1月25日発表の2022年10～12月期決算では、四半期として過去最高となる36億ドルの利益を計上し、株価上昇を後押しした。

テスラの経営に消えない不安材料

一方で、テスラの経営環境をめぐる不安材料は消えたわけではない。中国のEV乗用車市場は2022年、前年比82％増の503万台まで拡大したが、テスラは新型コロナウイルス感染拡大の影響で上海工場での生産が一時ストップ。2022年10～12月期の決算発表資料の中で上海工場はフル生産の状態にあるとしつつ、「短期的な想定として、生産量を継続的に引き上げることは考えていない」としている。

また、米国では13日、全米の注目を集めるアメリカンフットボールのスーパーボウルのテレビ中継で、テスラ車のFSDベータの安全性に疑問を呈するキャンペーンCMが流され、テスラ株の売り材料となった。