米英の次は日銀会合、植田総裁が考える「賃金と物価の好循環」の“確度”に注目、ドル円の見通し
米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の大幅利下げを決定し、緩和サイクルへ転じた。一方、英中銀は政策金利を据え置いた。しかし、11月の会合では追加利下げに踏み切る公算が大きい。海外の主要中銀が利下げ政策へ転じるなか、日銀は追加の利上げを模索している。植田総裁が考える「賃金と物価の好循環」の”確度”に注目したい。
記事のポイント
・米英は緩和サイクルへ、次は日銀金融政策決定会合に注目が集まろう
・植田総裁が考える「賃金と物価の好循環」の”確度”に注目したい
・ドル円は、144.00レベルが新たなレジスタンスラインに浮上してきた
・9月の日銀イベントは円高と円安、両方の要因になり得る
米英中銀は緩和サイクルへ転じる
米連邦準備理事会(FRB)は18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、通常の倍となる50ベーシスポイント(bps、0.5%)の大幅利下げを決定した。また9月のドットプロットでは、年内に計0.5%の利下げ予想が示された(予想中央値は4.4%)。
しかし、19日のIG為替レポート「FRBが0.5%の大幅利下げ、英中銀の追加利下げは11月が有力、ポンドドルとポンド円の見通し」で述べたとおり、短期金融市場の参加者はFOMCメンバーが想定する以上に、パウエルFRBの利下げペースが速まる可能性を意識している。
米FRB 政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / OISに基づく推移、20日9時時点
一方、イングランド銀行(英中銀)は19日の金融政策委員会(MPC)で、政策金利を現行の5.00%に据え置いた。決定は8対1だった。ディングラ外部委員が25ベーシスポイント(bps、0.25%)の利下げを支持した。
据え置きは想定どおりで、短期金融市場では11月会合での利下げを織り込む。そして来年以降も英中銀は、緩やかに利下げ政策を推し進めていくことが予想されている。
英中銀 政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / OISに基づく推移、20日9時時点
次は日銀会合、注目は植田総裁の発言
「賃金と物価の好循環」の確度と3つの要因
今日は日銀金融政策決定会合の結果が発表される。現行の金融政策を維持する公算が大きい。ゆえに、各市場の参加者は、植田和男総裁の定例会見で次の利上げ時期のヒントを得ようとするだろう。
植田総裁は、持続的な賃金の上昇とそれに伴う物価の緩やかな上昇の関係を重視している。いわゆる「賃金と物価の好循環」である。ゆえに今回の定例会見では、植田総裁が追加の利上げに足る”確度”についてどのように考えているのか?この点が円相場のトレンドを左右すると思われる。
”確度”に対する植田総裁の判断に影響を与える要因として、3つの点に注目したい。
要因1:海外の景気動向
ひとつめの要因は、海外の景気動向である。米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者は9月の経済見通しのなかで、急速な景気の減速ではなくソフトランディング(緩やかな景気の減速でインフレが抑制される状況)を想定している。
中国経済の先行きは懸念材料だが、海外景気の先行きリスクを総合的に考慮してなお、植田総裁が「賃金と物価の好循環」でその確度が高まっている、または今後それが高まることを予想する場合は追加利上げの思惑が高まろう。このケースでは、円高を想定しておきたい。
一方、海外景気の減速懸念が日銀の利上げ見通しに影響を与える可能性があることに言及する場合は、円安の要因になり得る。
要因2:急速な円安の修正
ふたつめの要因は、急速に進行する円安の修正である。7月3日にドル円(USD/JPY)は161.95レベルまで上昇した。
その後、日米中銀の金融政策の方向性が明確になったことで、9月16日に139.58レベルまで下落する局面が見られた。主要なクロス円でも円安の修正が進行中である。この状況は、物価の上振れリスクの後退につながる。円相場の動向が利上げ路線に変更を促す要因になり得ると植田総裁が指摘する場合は、円安の要因になり得る。
要因3:アメリカ大統領選挙と米ドル相場
最後の要因が、アメリカの政治である。2024年11月5日にアメリカの大統領選挙が行われる。激戦が予想されるなか、共和党のドナルド・トランプ前大統領が優勢となる場合は、米ドル相場のボラティリティが高まる可能性がある。
直近の動向を確認すると、大統領選の勝敗を左右する激戦州で開始予定だった郵便投票が相次いで延期となっている。郵便投票は民主党に有利に働くの見方がある。ゆえに郵便投票の延期は、トランプ氏の追い風となる可能性がある。
トランプ氏は米ドル安を志向する。そのトランプ氏が大統領選挙で勝利する可能性が高まる場合、そして実際に大統領選挙で勝利する場合、米ドル安がドル円のさらなる下落を促す可能性がある。
一方、トランプ氏の掲げる対中関税の強化や減税はインフレを再燃させる要因である。インフレリスクが再び意識される場合は、米債市場で利回りが上昇する可能性がある。米金利の上昇は米ドル高の要因となろう。そしてこれらの状況は、アメリカ経済にとってネガティブに働く可能性がある。
アメリカ大統領選挙前後の米ドル相場はボラティリティが高まる可能性がある。また、トランプ氏が勝利する場合のアメリカ経済の先行きも不透明である。植田総裁がアメリカ政治の動向を見極める必要性を強調する場合は、追加利上げの思惑が後退しよう。外為市場は円安で反応する可能性がある。
年内利上げの思惑
なお、日本経済新聞社とブルームバーグのエコノミスト調査によれば、今年12月会合で日銀が追加利上げに踏み切る可能性が意識されている。
しかし、短期金融市場で現状、年内の追加利上げを織り込む状況にはない。このため、植田総裁の会見内容が「追加利上げに前向き」と捉えられる場合は、短期金融市場での年内追加利上げの確率が上方修正されるだろう(エコノミストの予想に収れんされるだろう)。追加利上げの可能性が高まる場合は、円高の要因となろう。
※詳細は19日のIG証券ランチエクスプレスを参照
日銀 政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / OISに基づく推移、20日9時時点
ドル円の見通しとチャート分析
144.00が新たなレジスタンスの候補に浮上
ドル円(USD/JPY)は7月の高値161.95から9月16日に139.58まで下落した。実に22円超の下落幅である。短期間で急落したことから、今週のドル円は調整の反発相場にある。しかし、トレンドの軸は下値トライにあろう。
9月のFOMCを境にパウエルFRBは緩和サイクルへ転じるだろう。経済情勢次第では、再度の大幅利下げの可能性がある。パウエルFRBの政策転換は米ドル安の要因である。米ドル安はドル円の上昇を抑制しよう。ゆえにドル円の反発局面では、常に戻り売りを警戒しておきたい。
ドル円の反発が止められる水準として注目したいのが、144.00レベルである。昨日はこのラインの手前で反発が止められ、レジスタンスラインへ転換する可能性が高まった(下の日足チャート、赤矢印を参照)。21日線(143.36レベル)の上方ブレイクは144.00トライのシグナルとなるが、144.00レベルでは反落を警戒したい。
一方、ドル円が144円台へ上昇する場合は、フィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準145.65レベル、76.4%の水準147.08レベルをトライする可能性が浮上する。より注目すべきは、9月2日と3日に二日連続で相場の反発を止めた後者の147.08である(下の日足チャート、赤矢印を参照)。
ドル円のチャート:日足 2024年7月以降
出所:TradingView
137.00-138.00サポートゾーンの攻防
ドル円(USD/JPY)の下落局面では、今月16日の安値139.58の下方ブレイクが焦点となろう。テクニカルの面では、23年の安値と24年7月高値のフィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準140.48レベルを週足のローソク足(実体ベース)で完全に下方ブレイクし、かつこのテクニカルラインがレジスタンスのポイントへ転換する場合は、139円割れを想定しておきたい。
ドル円が138円台の攻防へシフトする場合、次の焦点はサポートラインへの転換が確認された138.00または137.00レベルの攻防となろう(下の週足チャート、赤矢印を参照)。
9月19日のIG証券ランチエクスプレスで指摘したとおり、2022年10月から2023年1月の調整相場(下落局面)では24.72円下落した。今年7月の高値161.95から24円下は138.00レベルである。そして25円下は137.00レベルである。過去の経緯からも137.00-138.00を重要なサポートゾーンと想定しておきたい。
ドル円のチャート:週足 2022年9月以降
出所:TradingView
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