Analyst's view
2017年前半はトランプ政権の混乱期
昨年の米大統領選挙後に発生したいわゆる「トランプラリー」の発端は、勝利宣言の際、トランプ大統領がそれまでの過激発言を封じ現実路線の転換を演出した点にあった。これにより、選挙中に掲げた「トランプ政策」の方に市場の関心が集まることで、「トランプラリー」が発生した。
しかし1月20日に発表された政府方針では、現実路線に即した経済促進政策 ―大規模減税&10年間で1兆ドルのインフラ投資― への具体的な言及はなく、TPPからの離脱とNAFTAの再交渉を表明するにとどまった。同日の米国債券市場はトランプ大統領の演説後、序盤の上昇幅が削られ、米ドル相場との相関性が高い10年債利回りは小幅に低下。外為市場では米ドル売り優勢の展開となった(チャート①参照)。トランプ大統領が未だ経済促進政策に言及しない(できない?)要因は色々考えられるが、今後、筆者が最も注視する点は共和党との関係である。もともと小さな政府を志向する共和党とトランプ政策は相反する。よって、お互いの妥協点が見出されるまで、トランプサイドと共和党サイド間でのつばぜり合いが続くだろう。事実、「トランプ政策」の財源確保を巡り、トランプ大統領が提唱している「国境税(border tax)」と共和党案の「国境税調整(border adjustments)」ですでにそのムードが出始めている(=国境税調整についてトランプ大統領は複雑過ぎると批判)。以上のことを考えるならば、2017年前半はトランプ政権の政策運営能力を見極める期間となるだろう。それは、米国債券市場と米ドル相場の調整相場が避けられないことを意味している。
ただ、調整相場入りとなっても、国際商品市況とグローバル株式市場が堅調さを保つ間は、外為市場でリスク回避の円高圧力が急速に強まる展開は考えにくい。しかし逆に言えば、これらの市場までが崩れるならば、リスク回避(=円高)の状況が発生するということだ。そして2017年前半は後半と比較し、その状況が起こる可能性が高いと言える。一つは、欧州の政治リスクだろう。ハードBREXIT、オランダ&フランス選挙そして金融セクター問題は依然として水面下で燻り続けている。ハードBREXITに絡んだスコットランドの動きもリスク要因として警戒すべきだろう。
だが、最も注視すべきリスク要因はやはりトランプ政権の政策運営能力だろう。2017年前半がトランプ政権の混乱期と考えるならば、そしてこれまでのトランプ大統領のコミュニケーション手法も考えるならば、政権が落ち着く(政策運営能力が備わる)まで米国民の不満をそらすために「敵」を作る可能性が高い。経済面で考えるならば、それは「保護主義」懸念を強めよう。具体的な経済促進政策に言及せずこの懸念のみが強まれば、米国株式市場の圧迫要因となろう。同時に、外為市場では円高圧力が強まるだろう。