Analyst's view
今年に入り米ドル安志向を鮮明にしているトランプ大統領は昨日、ホワイトハウスで製薬会社幹部と会談し、米国の貿易赤字に言及すると同時に日中の通貨安誘導を批判。また、他国が通貨供給量で有利な立場を取っていると指摘してきた点は、本格的に米ドル安政策を推し進める可能性と、通商政策の面で今後批判の矛先が日本に向けられる可能性が高いことを示唆している。
2016年10月時点の米為替報告書では、中国の対米貿易黒字が3561億ドル。日本のそれが676億ドルと大きな差がある。しかし、日本はGDP比の経常黒字の面で3.7%と、米国が定めた基準の3%を超えている(中国は2.4%)。また、これまでの金融政策や外部環境も考えるならば、日本は中国とともにトランプ政権の第一ターゲットとなりやすい。前者の金融政策については言うまでもなく「異次元緩和」が批判のターゲットとなろう。昨年9月の日銀会合で「量」から「金利」へターゲットがシフトしたものの、依然として国債購入は継続中。世界的な金利上昇局面では「テーパリング」をしたくてもできない状況にある。また、2016年度の対米貿易黒字6.8兆円のうち4.3兆円が自動車によるものであることも日本が批判のターゲットとされやすい要因となり得る。事実、トランプ大統領は先月下旬の米企業経営者との会談で、自動車分野における日米貿易不均衡に言及。米自動車大手フォード・モーターのマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)も同様に「為替操作が貿易を妨げる根源」と発言している。一方、日本の外部環境もトランプ政権のターゲットになりやすい要因となろう。それは安全保障である。東アジア情勢が不透明感を増す中、日本の防衛力強化は経済問題とともに喫緊の課題となっている。しかし、米国の保護下にある現在の状況はあらゆる分野で日本の交渉力の妨げとなろう。この点で対米貿易黒字が日本を超えるドイツ(711億ドル)や日本と同等のメキシコ(626億ドル)には差し迫った危機はない。このような国内外の環境下で、2月10日に控える日米首脳会談は円高リスクのイベントと捉えたい。この点は1月30日のレポート「焦点は米国イベント 円高リスクは米通商政策にあり」で指摘している。
ドル円は112.00が明確なサポートポイントとして意識されている。テクニカル面ではトランプラリーの高値118.66からの38.20%戻しにあたる。ただ、トランプ政権が米ドル安志向を鮮明にし日米首脳会談が円高イベントである点を考えるならば、112円の下方ブレイクを常に想定したい。112円以下のターゲットは昨年11月28日安値111.36レベル、節目の110.00(50.00%戻し)となろう。