Analyst's view
上述した通り、米雇用統計は強弱まちまちの内容となった。失業率が恒常的に5.0%を下回る状況下では、雇用者数がこれまでのように20万人増を維持することは不可能である。よって、2日の米金利の低下とそれに伴うドル売りは、低調な非農業部門雇用者数の内容ではなく別の要因、つまりこのレポートで再三指摘してきた賃金動向にあると考えるのが自然だろう。5月の賃金は、前月比で0.2%増 / 前年同月比で2.5%増と、前月と変わらず伸びが抑制された状況にあることが判明した。賃金の伸びが加速しなければ個人消費が拡大しない。個人消費が拡大しなければ経済成長が加速しない。経済成長の加速がなければインフレ期待が高まらない。そしてインフレ期待が高まらなければFEDの金融引き締め政策に今後狂いが生じる。今回も賃金という「質」の面での向上が確認出来なかったことで、米債券市場では上記のシナリオが意識されたと筆者は想定している。
そして今週は、米金利への低下圧力を強める2つの政治イベント、英国総選挙とコミーFBI長官による上院情報特別委員会の証言が控えている。特に注視すべきは後者だろう。証言内容次第では、特別検察官に指名されたモラー氏による今後の捜査方針が決定される可能性があるからだ。その方針が政権深部の調査に向かえば、労働市場の「質」の向上に不可欠なトランプ政策の頓挫という疑念を米債券市場に想起させる可能性が高い。米株が史上最高値圏での攻防となっている現状を考えるならば、それが金利低下圧力の相殺要因になるとの指摘がある。だが、米株高に追随出来ない米金利の現状を考えるならば、米債券市場は明らかに米政治との相関性の方が高いことを示唆している(チャート①参照)。冴えない指標データにトランプリスクと、目先米金利の上昇に期待が持てない以上、外為市場では米ドル安を警戒したい。また、ユーロドルの動向も米ドル相場のトレンド決定要因となろう。英国総選挙がリスク要因として意識されポンド安となれば、まずユーロポンドが上昇しよう。その影響がユーロドルへ波及し、結果「ユーロ高 /米ドル安」という流れを加速させる場合、米ドル安が他の主要通貨にも波及する可能性がある。
ドル円は、110円の攻防が焦点となろう。現在の株高は「トランプ離れ」といっても過言ではない。株高が続く限り、米ドル安圧力の相殺要因となろう。ただ、日米利回り格差との相関性がより高い以上、株高継続となっても米金利が反発しない限り、110円を再度割り込む可能性が高まっている(チャート②参照)。本日は200日MAが攻防分岐となろう。