Analyst's view
7月の米消費者物価コア指数は、前月比で0.1%と市場予想(0.2%)以下の内容となった。また、前年同月比では1.7%で横ばい推移となり、2017年以降急速に進行しているインフレ鈍化の基調があらためて確認された(チャート①参照)。この状況は、イエレンFRB(FED)の利上げペースに対する市場の懸念を強めよう。事実、金利先物市場から算出される12月の利上げ確率は35%台まで低下している(FED Watch 8月13日時点)。2017年に入りトランプリスクが米金利の低下圧力を強める要因となる中、その圧力の相殺要因となる唯一の材料がFEDの持続的な利上げペースである。この利上げペースに対する不透明感が強まり、且つドラギECBをはじめとした主要国がFEDに追随する可能性が高まっている状況も考えるならば、米債券市場では年後半も金利の低空飛行が続く可能性が高まってきた。
「米金利低下→米ドル安」のトレンドが継続するならば、ドル円も「緩やかな」下落トレンドを形成し続けよう。だが、「緩やかな」トレンドとなるためには、世界的な株高の維持が必須条件である。株高トレンドを崩すリスク要因が発生すれば、ドル円は重要サポートポイントである108円台を下方ブレイクするだろう。目下のところ、そのリスク要因として注視すべきは、北東アジアの地政学リスクだろう。北朝鮮によるグアムへのミサイル発射の可能性が高まれば、短期的に米朝間の緊張はさらに高まろう。その場合、ドル円は「米金利低下=米ドル安」の圧力、「株安=円高」の圧力が加わることで、上述した108円ブレイクの展開が想定される。一方、ユーロドルは、「北東アジアの地政学リスク→株安→安全資産である米債への資金シフト→米独利回り格差の縮小」を背景に、目先のレジスタンスポイント1.19レベルを視野に上昇圧力が強まろう。
逆に米朝間の緊張が緩和に向かえば、世界的な株高トレンドは維持されよう。特に米株は①良好な決算、②緩慢な米利上げペースの思惑、③米ドル安による新興国市場の回復が意識され、今後も株高基調を維持する可能性が高い。欧州株はユーロ高が懸念材料だろう。しかし、現状はこの点をリスクとして捉えるムードは感じられない。実際、欧州株のボラティリティ(VSTOXX)は、4月のフランス選挙時の水準を下回る水準で推移している。北東アジアの地政学リスクが後退すれば、欧米株式は株高トレンドへ回帰しよう。米10年債利回りが2.2%を割り込む局面となっている点を考えるならば、株高への回帰は米債券市場での調整圧力(=米債売り圧力)を強めよう。このケースでのドル円は、108円台を維持し、短期レジスタンスラインをブレイクする展開が想定される(チャート②参照)。