Analyst's view
10日発表の2月米雇用統計では、非農業部門雇用者数が23.5万人増と2か月連続で20万人の大台を突破した。また、労働参加率が63.0%まで上昇する中、失業率が4.7%まで低下したことは米労働市場の改善傾向が未だ続いていることを示唆している。ただ、市場が重要視しているのは雇用増という「量」の面ではなく、賃金の上昇という「質」の面である。なぜならば、失業率が恒常的に5.0%以下で推移している状況は、米労働市場がすでに完全雇用の状態にあり、今後も20万人以上の雇用増をコンスタントに維持できる可能性は低いからだ。「質」の面で重要視される2月の平均時給は、前月比0.2%増と市場予想の0.3%増に届かなかったものの、前年比では2.6%から2.8%への加速が確認された。総じて堅調な内容であったにもかかわらず、米ドル相場が下落した理由は、通商政策(=米ドル安政策)リスクが意識されているからだろう。ロス商務長官は10日の会見にて、日本との2国間の貿易協定締結に向けた交渉は、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に次いで優先度が高いという認識を示した。
米ドル相場の下落以上に注視すべきは、米金利の低下だろう。良好な2月雇用統計、米株高そして3月利上げが確実視される状況下でも10日低下したことは、昨年12月のFOMC後と同じく、期待先行後の金利低下局面に直面する可能性示唆している。米金利で再び低下圧力が強まれば、米ドル相場もその動きに追随しよう。
また、米ドル相場の圧迫要因として注視すべきは、ユーロドルの動きだろう。10日の大陽線示現によりユーロドルは2月9日以来となる1.07目前まで急反発している。15日に予定されているオランダ下院選挙で移民排斥を訴える極右「自由党」の躍進は、各市場のかく乱要因として注意しておきたい。しかし筆者は、短期的なユーロドルの上昇を想定している。そう考える理由は、通貨オプション市場にある。1か月のユーロプットの動向を確認すると、2月下旬以降ボラティリティの低下傾向が続いている。この動向から、少なくともオランダ選挙はリスク要因として捉えられていないことがわかる。事実、プットのボラティリティ低下に伴い、ユーロドルは上昇圧力を強めている(チャート①参照)。また、オプション動向に加え、1.06台における2つの重要レジスタンスポイント、リトレースメント38.20%の1.0625レベルと1.0680を一気に突破し、テクニカル面でも上昇トレンド回帰の可能性が高まっている点もユーロドルの短期上昇を想定する理由だ。FOMC後の調整とオランダ総選挙を無難に乗り切れば、ユーロドルは米独利回り格差の縮小を背景にさらに上昇幅を拡大させよう(チャート②参照)。それに伴い米ドル相場には売り圧力が強まろう。ドル円は115円ミドルがレンジの上限として意識され、米ドル安圧力を背景に下値トライの展開が想定される。ただ、リスク回避圧力が強まっているわけではないので、111.60レベルは維持しよう。