【アメリカ大統領選挙レポート:金価格の展望】 最高値更新のNY金、米大統領選挙後も強気相場を維持できるのか?
10月17日の市場でNY金先物価格(12月物)は2,712.7ドルまで上昇し、3週間ぶりに過去最高値を更新した。スポットの金価格も2,700ドル台へ上昇し最高値を更新し、強気相場の勢いが増している。アメリカ大統領選挙まで1ヶ月を切るなか、金価格はさらに上値を目指すのか?そして大統領選挙後も強気相場を維持することができるのか?
記事のポイント
・NY金は先物とスポットの価格でそれぞれ最高値を更新する状況が続いている
・アメリカ大統領選挙の年は、外為市場で米ドルが上昇する傾向にある
・アメリカ大統領選挙の後、金価格は一度下落することが予想される
・しかし金価格の下落は、押し目買いを狙うチャンスと捉えたい
最高値を更新し続けるNY金
10月17日の市場でNY金先物価格(12月物)は3日続伸した。一時は2712.70ドルまで上昇し、中心限月として3週間ぶりに最高値を更新した。
スポットの金価格(以下では金価格)も強気相場を維持している。年初来のトレンドを週足チャートで確認すると、右肩上がりのトレンドチャネル内で推移しながら、昨日は2,698.46(IGレート)まで上昇した。そして本日、2,700ドル台へ到達した。移動平均線は13週、26週そして52週の順で綺麗に並び、かつ上昇トレンドにある。
上昇基調のトレンドチャネル内で推移し、かつ移動平均線がパーフェクトオーダーの状況にあることを考えるならば、金価格がさらに上値を目指す展開が予想される。
今日以降、金価格が2,700ドル台へしっかりと上昇してくる場合は、フィボナッチ・エクステンション100%の水準2,753レベルのトライが焦点に浮上しよう。
金価格が2,753レベルをも難なく上方ブレイクすれば、中長期の目線で節目の3,000ドルを視野に上昇幅が拡大する可能性が高まるだろう。
実際に金価格が3,000ドルを目指す場合は、フィボナッチ・エクステンション161.8%の水準3,041ドルのトライが焦点に浮上しよう。
スポット金価格のチャート:週足 2024年以降
出所:TradingView
米大統領選挙後の年はドル高の傾向にある
アメリカ経済のソフトランディング期待が高まっていることで、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースが緩慢になるとの観測が急速に強まっている。
対照的に、欧州中央銀行(ECB)は今年最後となる12月の理事会で3回連続の利下げを実施することが予想されている。一方、イングランド銀行(英中銀、BOE)も11月と12月の金融政策委員会(MPC)で連続利下げを決定する可能性が浮上している。米欧中銀の利下げペースの差は、米ドル高/欧州通貨安を促している。
一方、国内政治の面で日銀による追加の利上げに対して不透明感が漂っていることで、ドル円は再び150円台へ上昇してきた。欧州通貨と日本円の売りは、米ドル高のトレンドを支える土台となっている。
こちらのレポートで指摘したとおり、アメリカ大統領選挙の年の外為市場は米ドル高の傾向が見られる。特に今は、外為市場で米ドル高が進行しやすい状況にある。過去のトレンドと現在の状況を考えるならば、共和党のドナルド・トランプ候補、民主党のカマラ・ハリス候補のどちらが勝利をおさめても、大統領選挙後の外為市場は米ドル高が進行することが予想される。
ドル指数のパフォーマンス:アメリカ大統領選挙の年 1976年以降
ブルームバーグの為替データで作成
金価格の展望について
トランプ候補勝利のケース
11月5日のアメリカ大統領選挙でどちらの候補者が勝利をおさめても、外為市場は米ドル高へ振れる可能性がある。米ドル高の進行は金価格の重しとなるだろう。米長期金利の上昇が米ドル高の土台となるからだ。
そして共和党のトランプ候補が勝利する場合は、民主党のハリス候補が勝利する場合と比べて金価格の下落幅が拡大する展開を想定しておきたい。本人の思惑とは逆に、トランプ候補が掲げる政策はいずれも米長期金利の上昇と米ドル高の要因となるからだ。
共和党とトランプ候補が掲げる主な政策
共和党の政策綱領より抜粋
しかし、トランプ候補がホワイトハウスへ返り咲いても、共和党が上下両院で多数派とならない限り、すべての政策が議会を通る可能性は低いだろう。「ねじれ議会」となる場合は、米大統領選挙後のドル高(思惑の米ドル買い)は年末あたりで一度終息し、来年初めは調整の米ドル安、または売り買いが交錯する相場が予想される。簡単に言えば、2016年11月から2017年前半にかけての米ドル相場の再来を想定しておきたい。
年末にかけて米ドル高が進行する場合、金価格は下値を目指す展開が予想される。そして年明け以降に米ドル高が終息する局面で、緩やかな反発トレンドへ転じることが予想される。
トランプ候補勝利のケースでは、サポートラインへ転換した2,500ドルの維持が焦点となろう。この水準を挟んで、13週と26週の移動平均線が展開している(冒頭の週足チャートを参照)。
一方、トランプ候補がアメリカ大統領選挙で勝利し、かつ上下両院の選挙で共和党が多数派となる場合、「ねじれ議会」のケースと比べて米ドル高トレンドが年明けも続くことが予想される。
だが、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペース次第で、その圧力が相殺されることが予想される。下で述べる3つの金価格をサポートする要因も考えるならば、金価格の下落局面では押し目買いのタイミングを考えたい。
ハリス候補勝利のケース
民主党のハリス候補が大統領選挙で勝利する場合も米ドル高が予想される。しかし、米長期金利の上昇と米ドル高の要因となる政策を掲げるトランプ候補が勝利する場合と比べて、その幅は限定的となることが予想される。
ハリス候補勝利のケースでは、サポートラインへ転換した2,600ドルの維持が焦点となろう(冒頭の週足チャートを参照)。
民主党とハリス候補が掲げる主な政策
民主党の政策綱領より抜粋
アメリカ大統領選挙と同時に行われる上院の選挙(定数100議席のうち2年ごとに約3分の1が改選される選挙)では、共和党が制する可能性がある。同時に下院でも共和党が多数派を維持する可能性もある。ゆえに、ハリス候補はトランプ候補以上に高い「議会の壁」に直面する可能性があろう。
副大統領として目立った実績が見られない点も考えるならば、ハリス候補の議会運営能力も政策実現のネックになり得る。よって、ハリス候補勝利の場合、米ドル相場のトレンドはパウエルFRBの利下げペースに大きな影響を受けることが予想される。来年以降、パウエルFRBの利下げペースが速まる場合は米ドル安の圧力が高まることで、トランプ候補が勝利する以上に、金価格の上昇幅が拡大する展開を想定しておきたい。
金価格の下落は買いのチャンス
筆者の予想どおり、アメリカ大統領選挙直後に金価格が下落する場合は、商品CFDで「短期的な」売りのタイミングを常に意識したい。
「短期売り」というのがポイントである。なぜなら、中長期の目線で考えるならば、金価格は以下で挙げる3つの要因で上昇トレンドを維持する公算が大きいからだ。
金価格の上昇要因1:中東リスク
まずは、混迷の度合いが深まる一方の中東情勢である。本レポート掲載時点では、対イランの報復を巡り、イスラエルは石油や核関連の施設を攻撃しないとの観測報道が見られる。しかし、イスラエル首相府は10月15日、米国の意見に耳を傾けるが、最終決定はイスラエルの国益に基づいて下すと表明した。
トランプ候補は明確なイスラエル支持を表明している。ゆえにホワイトハウスへ返り咲けば、イランに対し強硬な姿勢で臨むことが予想される。事実、アメリカはトランプ前政権のもと、2018年にイランの核合意から離脱して制裁を再開させた。そして2020年には、イランで英雄視されていた革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のトップ、カセム・ソレイマニ司令官を殺害し、イランとの対立を深めた経緯がある。
ゆえにトランプ候補の勝利は、中東情勢がさらに緊迫化するとの思惑を高める要因となろう。中東情勢に対する懸念の高まりは、金価格の押し上げ要因となろう。
金価格の上昇要因2:中国やロシアの中銀による金購入
金価格が上昇トレンド維持する2つ目の理由として注目したいのが、アメリカと対立する国々の中銀の動きである。特に中国とロシアの中銀は、段階的に金の保有量を増やしている。
中国とロシアはBRICS(中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカの5カ国で構成)の参加国であり、「米ドル1強」の通貨体制からの脱却を模索している。ゆえに自国通貨の信用力の裏付けとして、今後も金の保有量を段階的に増やしていくだろう。
中銀の持続的な金買いもまた、中長期のスパンで金価格の上昇トレンドを維持する土台となろう。
中国の外貨準備高と金保有額の推移
ブルームバーグの為替データで作成
ロシアの外貨準備高と金保有額の推移
ブルームバーグの為替データで作成
金価格の上昇要因3:投機筋の買い
持続的な金の購入に動いているのは中銀だけではない。投機筋も2022年の後半から金を買う動きへ転じている。そして2023年10月以降は、その動きが加速している。
決算や投資家へ資金を還元する必要性から、投機筋はポジションを長く保有しても数か月である。それでも持続的な金買いへ転じている今の状況は、ロシアがウクライナへ進行して以降、国際政治の先行き不透明感が急速に増していることを意識した動きと考えることができる。
また、米国頼みの状況に陥っている今の世界経済の脆弱性に対するリスクヘッジとして、金の投資妙味が増していることの証左と捉えることもできる。
投機筋のポジション動向:週次 2020年以降
ブルームバーグのデータで作成
以上、上で述べた3つの要因のうち、最初の2つは中長期の面で金価格の上昇相場をサポートしよう。また、リスクヘッジのための安全資産として投機筋が金買いに走っている状況も考えるならば、アメリカ大統領選挙の後に金価格が下落しても、売りは「短期」のスタンスを心掛けたい。
一方、金価格が今回の週足チャートで取り上げたテクニカルラインの他、大統領選挙の後にレジスタンスからサポートのラインへ転換した水準での攻防では、「押し目買い」を常に意識したい。
再掲 スポット金価格のチャート:週足 2024年以降
出所:TradingView
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