【アメリカ大統領選挙レポート:為替市場の展望】高まる米ドル高の圧力、揺れる日米金融政策への思惑、ドル円の見通し(アップデート)
来月5日にアメリカの大統領選挙が行われる。大統領選挙の年の米ドルは上昇する傾向にある。ここにきてパウエルFRBの利下げに対する市場の思惑が揺れている。日銀の政策動向にも不透明感が漂う。米経済が底堅さを維持し、石破政権のデフレ脱却最優先の姿勢(緩和維持の姿勢)が続けば、年末に向けたドル円の焦点は、下値の水準ではなく上値の水準の見極めとなろう。
記事のポイント
・アメリカ大統領選挙の年は、米ドル高の傾向が見られる
・日米の金融政策に対する市場の思惑が揺れている
・トランプ候補の勝利なら、米ドル高が進行する可能性が高まってきた
・ハリス候補の勝利なら、米ドルはパウエルFRBの政策動向に左右されよう
・アメリカ大統領選後から年末にかけてのドル円の見通しについて
不透明感漂う米利下げペース、修正される市場の思惑
前回のレポートでは、アメリカ大統領選挙の結果が米ドル相場に与える影響と今年末に向けてドル円(USD/JPY)がどうような展開となるのか?について考察した。しかしレポートを掲載した直後、2つの大きな動きがあった。このため、前回の見通しを修正する必要が出てきた。
その大きな動きの一つが、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースに対する市場の思惑である。
10月の第1週目に発表されたアメリカの雇用関連指標は、9月の雇用統計を含めて労働市場の堅調さを示唆した。そして同月のISM非製造業景気指数は54.9と、8月の51.5から上昇した。先行指標の新規受注が2023年1月以来の大幅な伸びとなったことを受け、総合指数は同年2月以来の高水準へ拡大した。強い経済指標は、各市場の参加者が抱くアメリカ経済のソフトランディング期待を高めた。
米経済の底堅さが経済指標で示されたことで、短期金融市場ではパウエルFRBの利下げペースに対する思惑が急速に上方修正されている。具体的には、先月末まで意識されていた11月と12月の連邦公開市場委員会(FOMC)での0.5%利下げの思惑が急速に後退している。
アメリカ政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 9日 午前7時時点 OISに基づく予想
急反発する米金利と原油先物価格
短期金融市場で大幅利下げの期待が後退する一方、アメリカの債券市場では利回りが急反発している。金融政策の方向性を織り込んで動く2年債利回りは強い雇用統計を受け、先週4日に3.9%台まで上昇した。10年債利回り(長期金利)も同じく3.9%台へ上昇し、本レポート掲載時点では4.0%台へ到達している。
米金利のチャート:2024年6月以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
イランとイスラエルの対立が激化の様相にあることで中東情勢がさらに混迷している。サウジアラビアの増産が行われる場合は、原油価格の上値を抑制する要因になり得るが、短期的には中東の地政学リスクが原油先物価格を押し上げる展開を想定しておきたい。
NY原油先物価格のトレンドを日足チャートで確認すると、50日線を突破し8月以来となる78ドル台へ急騰する局面が見られた。そして日足のMACDは強気相場に勢いが出始めていることを示唆している。一方、RSIには短期的な過熱感が見られない。デッドクロスの確認されていない。チャート分析を重視するならば、今のWTIは調整の反落を挟みながら、どの水準まで上昇するのか?この点を見極める局面にある。
アメリカ経済が堅調さを保つなかで原油先物価格の上昇が続けば、米金利にはさらに上昇の圧力が高まることが予想される。
NY原油先物価格のチャート:2024年7月以降
出所:TradingView
米ドル高再び?
長期にわたる利上げ政策を受けてなお堅調さを維持するアメリカの労働市場、急速に修正される米利下げペースに対する市場の思惑、そして米金利と原油価格の急反発という連鎖を受け、先週の外為市場では主要国の通貨で米ドル高の展開となった。
米ドルの騰落率:9月30日~10月4日
ブルームバーグのデータで筆者が作成
米ドルのトレンドを考えるうえで重要な指標であるドル指数(DXY)は先週、中期の移動平均線である50日線のみならず、フィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準102.45レベルをも突破した。今週は、半値戻しの水準103.15のトライそして上方ブレイクが焦点となろう。
ドル指数のチャート:日足 2024年6月以降
出所:TradingView
前回のレポートで指摘したとおり、1973年に外為市場が変動相場制へ移行して以降、アメリカ大統領選挙の年は米ドル高となる傾向がある。上で述べた現在の状況、そして今後もアメリカ景気の堅調さを示唆する経済指標が続けば、米ドル安のシナリオを修正する必要がある。
特に共和党のドナルド・トランプ候補が勝利する場合は、年末に向けて米ドル安ではなく米ドル高のシナリオを用意しておく必要がある。
ドル指数のパフォーマンス:アメリカ大統領選挙の年、1976年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
トランプ氏勝利なら2016年の再来か
共和党そしてドナルド・トランプ候補が掲げる「トランプ減税」の恒久化はアメリカ経済の下支え要因となろう。一方で財政リスクを高める要因でもある。移民の抑制と中国に対する強硬な姿勢は、インフレが再燃するリスクを高める要因となろう。
ゆえにトランプ候補が大統領選挙で勝利する場合、外為市場は米ドル高で反応する可能性がある。実際、2016年の大統領選挙直後は米ドル高の展開となった。いわゆる「トランプ・ラリー」である。
共和党とトランプ候補が掲げる主な政策
前回のレポートでは、アメリカ大統領選挙でトランプ候補が勝利をおさめても、パウエルFRBによる大幅利下げが米ドル高圧力の後退要因となり、緩やかな米ドル安へ転じる見通しを示した。
しかし、上で述べたとおり現在は市場が抱く大幅利下げの思惑が急速に後退している。もちろん、今後の経済指標次第で再びこの期待が高まる可能性は残る。
だが、9月の雇用統計とISM非製造業景気指数の結果を受け、今後数か月以内にアメリカ経済が急速に冷え込む可能性は低くなった。よって、今後発表される景気に関連した経済指標で強い内容が続く場合は、政策金利の据え置き観測が高まることも想定する必要がある。事実、CMEのFedWatch ツールによれば、11月のFOMCで政策金利の据え置き確率がわずかではあるが高まってきた(下のチャート、赤棒グラフを参照)。
米国経済が底堅さを維持したまま、米ドル高政策を掲げるトランプ候補がアメリカ大統領選挙で勝利する場合、外為市場では「2016年の再来」と言わんばかりに、米ドル高が進行することが予想される。
11月FOMCの利下げ確率
出所:CMEのFedWatch ツール / 日本時間9日 午前7時時点
ハリス候補勝利ならFRBの動向次第
一方、民主党のカマラ・ハリス候補がアメリカ大統領選挙で勝利する場合、米ドルはどのような展開となるのか?
この点について、まずは民主党とハリス候補が掲げる政策から考えてみると、対中国政策の強化、移民の抑制などは共和党とトランプ陣営が主張する政策と若干の違いはあれど、ほぼ同じである。大きな違いは法人税の引き上げであるが、この点は米国の株式市場に大きな影響を与えても、米ドルへの影響は限定的となることが予想される。
また、上院は共和党が制する可能性が高い。ハリス候補が勝利する場合は「議会のねじれ」により民主党とハリス候補が掲げる政策が通らない可能性がある。
よって、ハリス候補が勝利する場合、米ドル相場はパウエルFRBの政策動向をより強く受けると予想する。
民主党とハリス候補が掲げる主な政策
上で述べたとおり、残り2回のFOMC(利下げのペース)は経済指標に左右されるだろう。10月と11月の重要指標で景気懸念を高める内容が続かない限り、米利下げペースに対する市場の思惑は現状維持、またはさらに上方に修正される可能性がある。
また、「中東リスク→原油先物価格の持続的な上昇」がインフレ低下の圧力を後退させる要因となれば、米金利には上昇の圧力がかかり続けるだろう。よって現状では、ハリス候補が勝利しても外為市場では米ドル高優勢となる可能性がある。
だが、パウエルFRBは9月のFOMC以降緩和サイクルへ転じている。利下げはその国の通貨を減価させる要因である。米ドル高政策を掲げるトランプ陣営と政策決定でネックとなり得る議会のねじれの可能性を考えるならば、ハリス候補勝利のケースでは、FRBの利下げによる米ドル安の圧力が米ドル高の相殺要因となりやすい。
アメリカ政策金利の動向:四半期ベース 2013年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
ゆえにハリス候補の勝利で米ドル高となっても、トランプ候補勝利のそれと比べて米ドル高は限定的となることが予想される。
一方、仮にハリス候補が大統領選挙で勝利した後、さえない米経済指標が続きパウエルFRBの利下げペースが速まるとの思惑が再び強まれば、米ドル安優勢へ転じるシナリオを用意しておきたい。
年末に向けたドル円の見通し
揺れる石破政権と追加利上げの思惑
最後に、今年の年末に向けたドル円(USD/JPY)の見通しについて考察したい。
結論から言えば、前回のレポートで示した「米ドル安→ドル円の下落→137~138円ゾーンのトライ」の見通しを上方に修正する必要がある。その理由は、上述したとおり米利下げペースの不透明感にある。
もちろん今後の経済指標でさえない内容が続けば、米ドル安の圧力が高まることが予想される。特にハリス候補が勝利する場合は「米ドル安→ドル円の下落」を受け、前回のレポートで取り上げた137円や138円の水準をトライする可能性が残るだろう。法人税が嫌気れ米株安となる場合は、リスク回避の円高が137円や138円をトライするきっかけになり得る。
しかし、現時点ではその可能性は低下している。米金融政策の不透明感に加えて、先週もうひとつ大きな動きがあったからだ。それが、国内政治の面で日銀の追加利上げに対するハードルがジワリと高まってきたことである。
今月2日、石破茂首相は日銀の植田和男総裁と会談した。その後、記者団に対し個人的な見解としながらも、「追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と語った。この発言を受け、先週の円相場は円安へ振れた。個人的な見解ではなく、「一国のトップ」が追加の利上げについて明確に否定的な見解を示した、と外為市場で受け止められたことを先週の円安は示唆している。
また、赤沢亮正経済再生担当相は追加の利上げについて「慎重に判断していただきたい」とし、経済を冷やすようなことは「絶対にここしばらくやってはならない」と述べた。経済政策を担う政権のキーマンからも追加の利上げについて否定的な見解が聞かれたことで、国内の政治面で日銀の追加利上げに対するハードルが高まるだろう。
植田総裁が懸念しているアメリカ経済は、経済の堅調さを維持している。それにも関わらず短期金融市場では、年内の追加利上げ確率が30%台で推移している。また、来年1月の追加利上げの確率も同じく30%台にある。今後発表される賃金統計や日銀短観などの重要指標の内容を受けてなお追加利上げの確率が高まらない場合は、円高の思惑が後退しよう。
10月7日のIG為替レポート「ドル円の週間見通し 米雇用統計の衝撃、米利下げペースの思惑とドル安シナリオの修正、ドル円は150円が再び視野に」で述べたとおり、解散総選挙(10月27日投開票)後も政治サイドから追加利上げに対するけん制が相次げば、今年末に向けて再び円安が進行するシナリオも用意しておきたい。
日銀 政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成
注目のチャート水準
日米の金融政策に対して市場の思惑が揺れている。この状況は、米ドル安と円高の圧力をジワリと後退させる要因となろう。よって、今年末に向けたドル円(USD/JPY)は節目の140円、テクニカルの面では短期サポートラインの維持に注目したい(下の週足チャートを参照)。
景気の底堅さを示す米経済指標が続き、パウエルFRBの利下げペースに対する市場の観測がさらに上方に修正される場合(例えば政策金利の据え置き予想が台頭する場合)は、米ドル高の進行が予想される。
特に、共和党のトランプ候補がアメリカ大統領選挙で勝利する場合は、米ドル高が予想外に進行するシナリオを考えておきたい。このケースでのドル円は、140円や短期サポートラインの維持よりも、「どの水準までドル円が上昇するのか?」この点が焦点となりそうだ。
現時点で新たなレジスタンスポイントの候補に挙がるのが「152.00」である。この水準は、昨年10月から今年4月にかけてレジスタンスの水準としてもサポートの水準としても意識された経緯がある(下の週足チャート、赤矢印を参照)。現在は、レジスタンスのラインへ再び転換するかどうか?この点を意識する局面にある。本レポート掲載時点で52週線が150.10台で推移している(下の週足チャート、青ラインを参照)。ドル円がこの移動平均線を上方ブレイクする場合は、152.00をトライするサインと捉えたい。
米ドル高の進行、そして日銀の追加利上げ観測の後退による円安が重なる場合は、152円の上方ブレイクを想定しておきたい。このケースでは、今年7月の高値と9月の安値のフィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準153.40レベル、そして76.4%の水準156.67レベルのトライが焦点として浮上しよう。
パウエルFRBが利下げ政策へ転換している状況を考えるならば、ドル円が再び160円台へ上昇する可能性は経済指標次第となろう。
一方、ドル円が140円を下抜ける場合は、前回のレポートで取り上げた138円または137円のトライが焦点となろう。
ドル円のチャート:週足 2023年以降
出所:TradingView
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