【アメリカ大統領選挙レポート:為替市場への影響】迫る大統領選挙、米ドルへの影響とドル円の展望
2024年11月5日にアメリカの大統領選挙が行われる。大統領選挙の年は米ドル高となる傾向が見られる。一方、ドル円には明確なトレンドが見られない。しかし、大統領選挙の翌年のドル円は上昇する傾向にある。今回の大統領選挙が為替市場、特に米ドル相場へ与える影響は?そしてドル円の展望は?
記事のポイント
・米大統領選挙の年は米ドル高の傾向にあるが、ドル円には明確なトレンドが見られない
・しかし、米大統領選挙の翌年のドル円は上昇する傾向が見られる
・トランプ氏勝利なら「米ドル高→米ドル安」が予想される
・ハリス氏勝利なら米ドル安の進行が予想される
・ドル円の展望について(2024年末まで)
米ドルの動向:アメリカ大統領選挙の年
1973年に外為市場は現在の変動相場制に移行した。それ以降のアメリカ大統領選挙と米ドルのパフォーマンスをドル指数(DXY)で確認すると、米ドル高の傾向が見られる。米ドル安となったのは、2004年、2012年そして2020年の3回しかない。この3回のうち、2回は6%超の米ドル安となった。
ドル指数のパフォーマンス:アメリカ大統領選挙の年、1976年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
米ドルの動向:アメリカ大統領選挙の翌年
一方、アメリカ大統領選挙の翌年の米ドルのパフォーマンスを確認すると、総じて米ドル高の傾向にある。米ドル安となったのは、4回しかない。
ドル指数のパフォーマンス:アメリカ大統領選挙の翌年、1977年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
ドル円の動向:アメリカ大統領選挙の年
次にアメリカ大統領選挙とドル円(USD/JPY)のパフォーマンスを確認すると、大統領選挙の年は明確なトレンドが見られない。しかし、アメリカ経済が景気後退に陥った1980年と2008年でドル円の下落率が拡大した(それぞれ15%超、18%超)。
現在のアメリカ経済は、約2年半におよぶ米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ政策を受けてなお堅調さを維持している。ゆえに、アメリカ経済が今年中に景気の後退局面、それもハードランディングの状況に陥る可能性は限りなく低いだろう。よって1980年代や2008年の時のような「景気後退によるドル円の下落」のシナリオは描きにくい。
ドル円のパフォーマンス:アメリカ大統領選挙の年、1976年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
ドル円の動向:アメリカ大統領選挙の翌年
一方、アメリカ大統領選挙の翌年のドル円(USD/JPY)のパフォーマンスを確認すると、1997年以降は上昇傾向にあることが分かる。ドル円が下落したのは、2017年のみである。しかも下落率は3.6%と、アメリカ経済がオイルショックと異常なインフレに直面した1970年~80年代の下落と比べて限定的だった。
このトレンドを重視するならば、来年のドル円は上昇相場が予想される。
ドル円のパフォーマンス:アメリカ大統領選挙の翌年、1977年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
高まるFRBの連続大幅利下げの可能性
上で述べたとおり、アメリカ大統領選挙の年は米ドル高の傾向にある。しかし、2024年のアメリカ大統領選挙はその傾向から外れるシナリオを想定しておきたい。そう考える理由は、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策転換にある。
パウエルFRBは9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で通常の倍となる50ベーシスポイント(0.5%)の利下げを決定した。そして9月のドットプロット(FOMCの参加者による政策金利の予想)を確認すると、今年12月末の予想中央値が4.4%だった。FOMCの参加者は、残り2回の会合で計0.5%の追加利下げを織り込んでいることが示された。
しかし、短期金融市場はFOMCの参加者が想定する以上にパウエルFRBの利下げペースが速まる可能性を意識している。CMEのFedWatch ツールによれば、11月FOMCでの0.5%利下げの確率は五分五分となっている。OISに基づく政策金利の予想推移は4.4%台である(この点は下で述べる)。この水準は、FOMCの参加者が予想している今年末の予想水準と合致する。つまり、短期市場はパウエルFRBが想定している以上に、利下げペースが速まる可能性を意識していることになる。
米連邦公開市場委員会(FOMC)の利下げ確率:11月
出所:CMEのFedWatchツール / 9月29日 日本時間午前5時時点
トランプ氏の勝利と米ドルの展望
トランプ政策は米ドル高の要因
共和党のドナルド・トランプ候補が掲げる主要な政策-法人税の減税は景気の下支え要因となろう。また、財政リスクを高める要因でもある。そして移民の抑制と対中関税の強化は、インフレが再燃するリスクを高めよう。トランプ政策の影響を考えるならば、トランプ氏が大統領選挙で勝利する場合、米ドル相場のファーストリアクションは米ドル高が予想される。実際、2016年の大統領選挙直後は米ドル高の展開となった。いわゆる「トランプ・ラリー」である。
2016年との違いに注目
しかし2016年当時は、FRBが利上げ政策の真っ只中にあった。しかし、現在は利下げの局面に転じている。これは大きな差である(下のラインチャートを参照)。
アメリカ政策金利の動向:四半期ベース 2013年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
さらに現在は、上で述べたとおり11月のFOMCでパウエルFRBが連続で0.5%の大幅利下げに追い込まれる可能性がある。経済情勢によっては、12月のFOMCでもその(大幅利下げの)可能性が浮上しよう。事実、短期金融市場(OIS)が予想する12月の政策金利の水準は4.1%まで低下している。一時は、4.0%台まで低下する局面が見られた。
米政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 9月27日時点の予想推移
米ドルは次第に売り優勢の展開に
中央銀行の利下げは基本的にその国の通貨の減価要因となる。ゆえに、短期金融市場の予想どおりにパウエルFRBが連続で大幅利下げに追い込まれる場合は米ドル安の圧力が高まろう。
また、トランプ氏が政策を実現するには議会を通す必要があり、主張する政策がすべて通るかは不透明である。ゆえにトランプ氏勝利による米ドル高は一過性の投機的な動きで終わり、2024年末に向けての外為市場では、米ドル高のさらなる是正(米ドル安優勢)が予想される。
翌年は米ドル高の1年か
しかし、翌年以降はトランプ政策の効果が経済に及ぼす影響をじっくりと見極める必要があろう。トランプ氏の政策が議会を通れば(またはその可能性が高まる場合は)上で述べた景気の下支え効果、インフレ再燃の可能性と財政リスクが意識され、米長期金利には上昇の圧力が高まるだろう。
財政リスクによる「悪い金利の上昇」は米ドル安の要因となる可能性がある。しかしこのケースでは、アメリカの株式市場が下落することが予想される。アメリカの株安の影響は、世界の主要な株式市場に電波するだろう。外為市場では、よりリスク性の高い新興国通貨やオセアニア通貨に対してリスク回避の売りが高まろう。これらの通貨売りが、米ドル相場を下支えする可能性がある。また、トランプ政策によって景気が下支えされる場合、持続的な米利下げの観測も後退するだろう。
よってトランプ氏が大統領選挙で勝利する場合、2025年は「アメリカ大統領選挙の翌年は米ドル高」というパターンとなると筆者は予想している。
ハリス氏の勝利と米ドルの展望
FRBの利下げで米ドル安進行
直近の米大手メディアが実施した世論調査によれば、民主党の候補カマラ・ハリス副大統領の支持率が拡大している。
米大手メディアの支持率調査
出所:各米メディアのウェブサイト
ハリス候補はバイデン現政権の政策を引き継ぐとみられる。トランプ政策と比べれば、インフレの再燃と財政悪化のリスクを高める政策を掲げてはいない。よって、ハリス候補の政策が直接的に米ドル相場へ影響を及ぼす可能性は低い。ゆえに、ハリス候補が大統領選挙に勝利する場合は、上で述べたパウエルFRBの利下げ政策の影響が軸となり、米ドル安が進行することが予想される。
ハリス増税と日米の株安、リスク回避の円高
ハリス氏勝利が大統領選挙で勝利する場合、個人的に注目しているのがアメリカ株式市場の反応である。ハリス氏は、政策綱領に法人税率を現行の21%から28%へ引き上げることを明示した。利益が10億ドル超の企業には「公平な負担をさせることが目的という。また、米国を拠点とする多国籍企業が海外で上げた収益にかかる税率も、現在の倍の21%にするとした。
これら増税策は、アメリカ企業の収益を悪化させる要因である。大統領選挙が約1ヶ月後に迫るなか、ハリス氏優勢の報道でアメリカの株式市場がどのような反応を示すのか?日々チェックしたい。増税懸念でアメリカの株式市場が下落すれば、その影響は日銀の追加利上げや石破新総裁が主張する金融所得課税の強化で揺れる日本株にも飛び火するだろう。
今夏の日米株安局面でドル円(USD/JPY)は円高へ振れた(下のチャートを参照)。下で述べるとおり、植田日銀が追加の利上げを虎視眈々と狙っている状況も考えるならば、ハリス増税でアメリカの株式市場が崩れる場合は、米ドル安と円高が同時に発生するシナリオを用意しておきたい。
日米株価指数とドル円の動向:7月1日~8月6日
ブルームバーグのデータで筆者が作成
僅差での勝利と米ドル安のリスク
上で述べたとおり、2024年のアメリカ大統領選挙ではどちらの候補が勝っても、2024年末に向けて米ドル安優勢(米ドル高の是正)を筆者は予想している。
そう考えるもう一つの理由が、「僅差での勝利」である。
共和党のトランプ氏と民主党のハリス氏、どちらの候補が次のアメリカ大統領となっても、それは僅差の勝利となる可能性がある。このケースでは、アメリカ政治の分断リスクが高まる可能性がある。2021年1月に発生したアメリカ合衆国議会議事堂の襲撃事件を考えるならば、特に「トランプ氏が僅差で敗れる」場合は、そのリスクを意識したい。政治の分断は社会の分断につながる。「アメリカの分断」リスクは、米ドルにとって下落要因となろう。
ドル円の展望とチャート分析
日銀は12月に追加利上げ?
9月27日の自民党総裁選で石破茂元幹事長が新総裁に就任した。石破新政権は経済・金融政策の両面で岸田政権の政策を踏襲するだろう。植田日銀はこれまでと同じくデータを精査しながら、次の利上げ時期を模索するだろう。
日銀の追加利上げのタイミングとして意識されているのが今年12月の金融政策決定会合である。現状、短期金融市場では年内の追加利上げを想定する状況にはない。しかし、12月の会合までに賃金統計や日銀短観などの重要かつ十分なデータが精査できる。また、来年の春季労使交渉(春闘)の予想も出始めるだろう。これらの内容が出そろう12月ころまでに、短期金融市場の予想が急変している可能性は否定できない。
日銀 政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成
上で述べたデータを精査した上で、植田日銀が持続的な賃金の上昇と個人消費の伸びに自信を持つ場合は、12月の会合で追加利上げに踏み切ることを想定しておきたい。
一方、パウエルFRBは9月のFOMCを境に緩和サイクルへ転じている。今年のアメリカ大統領選挙ではどちらの候補が勝っても、米ドル安(米ドル高の是正)へ振れる可能性がある。そして「利上げの日銀」、「利下げのFRB」を考えるならば、今年10月から年末にかけてのドル円(USD/JPY)は、新たな下値の水準を見極めることが焦点となろう。
円高と米ドル安が同時に進行すれば137~138円が視野に
ドル円(USD/JPY)が139.58レベルを完全に下方ブレイクする場合は、米ドル安と円高が同時に発生する状況が想定される。このケースでは、138.00レベルまたは137.00レベルまでの下落を想定しておきたい。この水準はレジスタンスからサポートの水準へ転換した経緯がある(下のチャート、赤矢印を参照)。
2022年10月から翌年1月にかけてドル円は24.72円急落した。この時の状況を参考にする場合、今年7月の高値161.95レベルから24円下は138.00レベルにあたる。一方、25円の下落を想定する場合は、137.00レベルがサポート水準として浮上する。2022年の安値113.48レベルと161.95レベルの半値戻しが137.71レベルであることも考えるならば、テクニカルの面でも137.00~138.00を重要なサポートゾーンと想定しておきたい。
ドル円のチャート:週足 2021年10月以降
出所:TradingView
本レポートはお客様への情報提供を目的としてのみ作成されたもので、当社の提供する金融商品・サービスその他の取引の勧誘を目的とした ものではありません。本レポートに掲載された内容は当社の見解や予測を示すものでは無く、当社はその正確性、安全性を保証するものではありません。また、掲載された価格、 数値、予測等の内容は予告なしに変更されることがあります。投資商品の選択、その他投資判断の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたしま す。本レポートの記載内容を原因とするお客様の直接あるいは間接的損失および損害については、当社は一切の責任を負うものではありません。 無断で複製、配布等の著作権法上の禁止行為に当たるご使用はご遠慮ください。
IG証券のFXトレード
- 英国No.1 FXプロバイダー*
- 約100種類の通貨ペアをご用意
* 英国内でのCFDまたはレバレッジ・デリバティブ取引(英国でのみ提供)での取引実績において、FX各社をメイン口座、セカンダリー口座として使用している顧客の割合でIGがトップ(Investment Trends UKレバレッジ取引レポート 2022年6月)
リアルタイムレート
- FX
- 株式CFD
- 株価指数CFD
※上記レートは参考レートであり、取引が保証されるものではありません。株式のレートは少なくとも15分遅れとなっております。