【ドル円の週間見通し 後編】迫るFOMC、パウエル会見に注目 米議会「ねじれ」と不意打ちの米ドル安を警戒
アメリカ大統領選挙が行われる年の外為市場は、米ドル高へ振れる傾向が見られる。しかし、7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)とパウエル会見、そして連邦議会選挙の動向次第では、不意打ちの米ドル安を警戒したい。今週のビッグイベントがいずれも米ドル安の要因となれば、ドル円の下落幅が拡大する展開が予想される。注目のサポートラインは?
記事のポイント
・アメリカ大統領選挙の後は、FOMCに市場の関心が集まるだろう
・追加の利下げは織り込み済み、焦点は今後の利下げペースに、パウエル会見に注目
・アメリカ大統領選挙で議会の「ねじれ」が生じれば、不意打ちの米ドル安を警戒したい
・米大統領選とFOMCが米ドル安の要因となれば、ドル円は150円の維持が焦点となろう
じわりと進むアメリカ労働市場の減速
アメリカ労働省が1日に発表した10月の雇用統計で、非農業部門雇用者数が前月比1万2,000人増と、ブルームバーグがまとめた市場予想の10万人を大きく下回った。
しかし、大きく雇用が減少した要因が航空機大手ボーイングのストライキや大型ハリケーン「ミルトン」の被害などにあるとの見方から米長期金利、米ドル、そして米国株など各市場ではヒステリックな反応は見られなかった。
10月の失業率は4.1%と、依然として低い水準にある。しかし筆者は、アメリカの労働市場が次第に減速していると考えている。
9月の非農業部門雇用者数は22万3,000人増に下方修正された。また8月と9月分の増加数は、合計で11万2,000人下方に改定された。直近の3ヶ月平均雇用者数は10万4,000人と、減少の傾向にある。
非農業部門雇用者数変化 3ヶ月平均:2022年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
また、アメリカ労働者の失業の理由を見ると、2022年の秋以降、一時解雇を除く失業者の数が増加の一途にある(下のチャート、右上ラインを参照)。同じ傾向は、正規雇用の失業者数でも見て取れる(下のチャート、左下ラインを参照)。
対照的に自発的な理由で失業している労働者の数は減少の傾向にある(下のチャート、右下ラインを参照)。
確かに失業率は4.1%と低い水準にある(下のチャート、左上ラインを参照)。一見底堅さを維持しているように見えるその裏で、望まぬ失業者が増加傾向にある状況は、アメリカの労働市場が徐々に減速の傾向にあることを示唆している。
米国 失業率と失業の理由:2021年10月以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
迫るFOMC、焦点は今後の利下げペース、パウエル会見に注目
前編のレポート「米雇用統計に冷静な市場、注目のアメリカ大統領選挙、トリプルレッドなら米ドル高加速」で指摘したとおり、アメリカ大統領選挙の年の外為市場は、米ドル高へ振れる傾向にある。依然としてアメリカ経済が底堅さを維持している状況も考えるならば、大統領選挙後の外為市場は、米ドル高の展開を想定しておきたい。
だが、今週6日から7日にかけて開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)の内容次第では、突発的な米ドル安が発生する可能性がある。
10月の米雇用統計発表後、短期金融市場では12月18日に開かれる今年最後の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ確率が67%前後まで上昇した。週明けも同じ確率にある。10月の雇用統計が発表される前は60%前後で推移していた利下げ確率が、雇用統計を受けて上昇した状況は、短期金融市場でアメリカ労働者の減速が意識されている可能性を示唆している。
米政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 4日午前9時時点の予想推移
11月のFOMCでは0.25%の利下げが確実視されている。ゆえに焦点は、米連邦準備制度理事会(FRB)が12月以降、利下げペースを加速させるかどうか?にある。この点について外為市場の参加者は、パウエルFRB議長の会見からそのヒントを得ようとするだろう。
筆者が注目しているのが、雇用を含めた景気全般の見通しである。12月のFOMCでも連続利下げの期待が高まるなか、パウエルFRB議長が景気の先行きに対して警戒感を示せば、12月以降も連続利下げのペースを維持する可能性が外為市場で意識されるだろう。
利下げはその国の通貨の減価要因である。ゆえに、パウエル会見後に不意打ちの米ドル安が発生する展開を警戒しておきたい。
米議会の「ねじれ」も米ドル安の要因に
前編のレポートでは、アメリカ大統領選挙でトランプ候補が勝利し、かつ上下両院の連邦議会選挙で共和党が制する「トリプルレッド」について言及した。
アメリカ大統領選挙で民主党のカマラ・ハリス候補と共和党のドナルド・トランプ候補、どちらが勝利をおさめるのかを予想するうえで、筆者は「Polymarket」の予想確率に注目している。それによれば、本レポート執筆時点ではトランプ候補が勝利する確率がカマラ候補のそれを上回っている(前編のレポートを参照)。
アメリカ大統領選挙の勝敗は7つの激戦州(Swing States)次第と言われている。Polymarket でそれぞれの州の勝利予想確率をみると、日本時間4日午前11時時点では、5つの州で共和党のトランプ候補が優勢となっている。ハリス候補はウィスコンシン州とミシガン州のみで優勢の状況にある。
7つの激戦州 各候補者の勝利予想確率
出所:Polymarket /4日 日本時間11時時点の予想確率
アメリカ大統領選挙でトランプ候補が勝利する場合、外為市場は米ドル高で反応する展開が予想される。だが、一時的にこの予想を覆すシナリオが一つある。
それが、アメリカ議会の「ねじれ」である。
上院は共和党が制するとの報道が多く見られる。一方、下院は接戦になるとの見方が優勢である。上院のみに与えられている権限は条約の批准と承認、そして人事(大統領が指名する各省の長官や最高裁判事)の承認などに限られており、上院と下院は議会において対等の権限を有している。法律の制定で両院の見解が異なる場合は、協議会で調整が行われる。
民主党が下院を制する場合は、アメリカ議会で「ねじれ」が生じることになる。予算審議で上下両院とも対等の権限を有している以上、下院では共和党とトランプ候補が掲げる減税政策などの審議が滞ることが予想される。この思惑は米ドル安の要因になり得る。
アメリカ議会の「ねじれ」と上で「ハト派」のFOMC(パウエルFRBの会見)が重なれば、不意打ちの米ドル安が進行する展開を警戒したい。
それでも米ドル安は一時的
しかし、米議会の「ねじれ」や11月のFOMCが米ドル安の要因となっても、それは一時的な動きで終わる可能性が高いと筆者は考えている。
その理由は3つある。ひとつは民主党の妥協である。今回の議会選挙で民主党が下院を制しても、共和党が掲げる政策すべてに反対姿勢を維持する場合は、「何も決められない議会」の原因は民主党にあるとの悪印象を有権者に与え、反発を招くだろう。ゆえに、民主党は共和党と妥協するラインを探るかたちで議会に臨むことが予想される。市場参加者もこの点については想定しているだろう。
共和党とトランプ陣営が掲げる政策は景気の下支え要因となる一方、インフレを再燃させる可能性も高めるだろう。ゆえに、トリプルレッドが実現せずとも今回の選挙がトランプ陣営優勢の結果となれば、年末に向けて外為市場では米ドル高優勢で推移することが予想される。
2つめの理由は、FRBと同じく他の主要中銀も緩和サイクルへ転じていることである。今週7日の金融政策委員会(MPC)では、英中銀の利下げが織り込まれている。ベイリー総裁はインフレ次第で連続利下げについて言及する可能性がある。ゆえにパウエルFRBが利下げ姿勢を維持しても、それが米ドル安一辺倒の要因とはならないだろう。
3つ目の理由は、アメリカ経済の強さである。労働市場は減速の傾向にあるが、アメリカ自体経済は日本、ユーロ圏そして中国と比べて相対的に底堅さを維持している。アメリカ大統領選挙の後に発表される経済指標で引き続きソフトランディング期待を高める内容が続けば、年末に向けて米ドルの下支え要因となろう。
以上、上で述べた3つの理由を総合的に考えるならば、11月のFOMCと米議会の「ねじれ」が米ドル安の要因となっても、それは一時的な動きで終わる展開を想定しておきたい。
ドル円の週間見通し:米大統領選挙とFOMCが米ドル安の要因となるケース
まずは150円の攻防が焦点に
アメリカ大統領選挙と11月のFOMC、どちらかが米ドル安のイベントとなれば、ドル円(USD/JPY)の下値トライを想定しておきたい。
ドル円の下落局面で最初に注目したいのが、150.80手前まで上昇している21日線の維持である(一番下の日足チャート、オレンジのラインを参照)。この移動平均線をトライするサインとして、下の1時間足チャートにプロットしたフィボナッチ・リトレースメントの各水準での攻防に注目したい。
半値戻しの水準151.48レベルは、先月25日の市場でドル円をサポートした経緯がある。61.8%戻しの水準150.92レベルは、151円の維持を見極めるテクニカルラインとして注目したい。21日線が150.80レベルまで上昇していることを考えるならば、151.00前後を重要なサポートラインを想定しておきたい。
ドル円が151.00レベルを完全に下方ブレイクすれば、地合いの弱さを市場参加者に印象付けよう。このケースでは、節目の150.00の維持が焦点に浮上しよう。
なお、週明けのドル円は151円台へ下落している。ビッグイベント前のポジション調整による下落と思われる。アメリカ大統領選挙の前に150.00をトライそして下方ブレイクする可能性も想定しておきたい。
1時間足のMACDとRSIで相場のトレンドと短期の過熱感を常に確認したい。本レポート掲載時点でこれらのテクニカル指標はデッドクロスへ転じている。ゆえに、目先は上で取り上げたサポートラインの攻防を意識したい。
MACDとRSIがともにゴールデンクロスへ転じてる場合、特に上で述べた各サポートラインをドル円がトライする局面でゴールデンクロスが確認される場合は、相場の反発と短期の買いを考えたい。
ドル円のチャート:1時間足 10月18日以降
出所:TradingView
ビッグイベントがともに米ドル安の要因となれば149円の攻防が焦点に
週明けの下落相場を受け、日足のMACDはRSIとともにデッドクロスへ転じた(下の日足チャート、赤矢印と紫の矢印を参照)。
このタイミングでアメリカの大統領選挙とFOMCがともに米ドル安の要因となれば、ドル円(USD/JPY)の150円割れを想定しておきたい。調整相場の進行で、アメリカ大統領選挙の前に150円を割り込む可能性もある。
いずれにせよ、ドル円が150円を下方ブレイクする場合は、サポートラインへの転換が確認された149円の維持が焦点となろう(下の日足チャート、緑矢印を参照)。テクニカルの面では、10月21日の安値149.09レベルの維持(全戻し)の攻防に注目したい。
ドル円が149円をも下方ブレイクすれば、9月16日の安値139.58と10月28日の高値153.88のフィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準148.42レベルを視野に下落幅が拡大する展開を想定しておきたい。
ドル円のチャート:日足2024年6月以降
出所:TradingView
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