原油価格急変か　中東情勢深刻化　需要減少見通し後退も上昇圧力

原油市場急変の可能性が高まっている。原油先物市場の指標価格であるWTIの8日の終値は前日比1.28％高。背景にはイランによるイスラエル攻撃のおそれをめぐる緊張感があり、産油国が集中する中東地域の混乱が原油価格上昇を招くとの観測が強まっている。またアメリカの7月雇用統計の弱さが発端となった原油需要の減少見通しは、その後の経済指標を受けて後退。やはり原油価格に上昇圧力がかかった。ただし原油価格が急騰する事態に至れば世界経済に波乱が起こりかねず、中東情勢深刻化の懸念は金融市場の不安要素といえそうだ。

【関連記事】原油価格が急落　米国の雇用悪化見通しが影　WTIは7か月ぶり安値（2024年8月22日）

原油価格は上昇傾向　WTIは76ドル台に

LSEGによると、WTI（WTI原油）の8日のニューヨーク市場の終値は1バレル＝76.19ドル。3日続伸の結果、5日につけた直近の安値（72.94ドル）から4.46％高となった。原油価格は6月以降、73ドル程度から84ドル程度の間を行き来しており、80ドル台への上昇を意識させる値動きといえそうだ。

ハマス最高指導者の死亡後、中東情勢の緊迫感高まる

原油価格上昇の背景にあるのは中東情勢の緊迫化だ。パレスチナ自治区でイスラエルとの戦闘を続けているイスラム組織ハマスは7月31日、最高指導者のイスマイル・ハニヤ氏がイランの首都テヘランで死亡したと発表。イスラエルによる暗殺だとしている。ハマスは8月6日に新たな最高指導者として強硬派のヤヒヤ・シンワール氏を選出した。

ハニヤ氏の死亡後、欧米メディアはハマスを支援するイランがイスラエルへの大規模攻撃を検討していると報じている。またレバノンを拠点とする親イラン勢力のヒズボラもイスラエルを攻撃する可能性があるという。米国のバイデン政権はイスラエル防衛のための軍事体制を整えるとともに各方面に自制を求めているが、イランなどによる攻撃が間近に迫っているとの緊張感は強い。

アメリカ経済の悪化懸念が後退　原油需要は堅調か

また原油価格上昇には米国経済の見通し不安の後退も影響している。労働省が8日に発表した7月28日-8月3日週の新規失業保険申請件数は23万3000件で、ロイターがまとめた事前予想の24万件を下回った。米国の労働市場をめぐっては2日に発表された7月雇用統計で失業率が4.3％まで上昇。米国経済が悪化するとの見通しが広がり、2日のWTIは前日比3.66％安で反応していた。8日の新規失業保険申請件数の上振れは、こうした米国経済悪化懸念を和らげる内容といえそうだ。

さらに原油価格にとっては米国のエネルギー情報局（EIA）が7日に発表した原油在庫量も安心材料となっている。2日時点の原油在庫（戦略備蓄除く）は4億2932万バレルで1週間前から372万バレルの減少。ロイターがまとめた市場予想の70万バレル減を超えた。原油在庫の取り崩しの大きさは需要の強さの表れといえ、7日のWTIは2.77％高で反応している。

ただ、イランがイスラエルに本格的な攻撃を仕掛ければ、イスラエルの報復攻撃も想定される。中東危機が意識される事態に至った場合は、投機的な動きによる原油価格の急騰や、世界各国の経済や物価の動向に余波が及ぶ見通しも強まり、原油市場にとどまらない広範囲な影響がでるおそれがありそうだ。