【米国株 ウィークリーレポート】 重要経済指標と銀行決算がボラティリティ拡大の要因に
3月の米雇用統計はほぼ予想通りの内容となった。雇用者数の伸びは再び鈍化している。しかし、失業率が低下したことで労働市場の冷え込みに対する懸念はひとまず後退する可能性があろう。賃金インフレの抑制傾向が確認されたことも米国株にとってはポジティブな要因である。しかし景気の先行きは根強い。今週の重要経済指標と大手銀行の決算内容次第では、ボラティリティが高まる展開を想定しておきたい。
【サマリー】
・3月の米雇用統計は労働市場の底堅さを示唆する内容となった
・失業率の低下と賃金インフレの抑制が確認されたことは米株高の要因となろう
・しかし金融システム不安は水面下でくすぶっており景気の先行きリスクも高まっている
・今週の注目材料はインフレ指標、小売売上高そして米銀の決算である
・注目材料が景気リスクを高める要因となれば米国株のボラティリティ拡大を警戒したい
3月の米雇用統計は株高の要因
米労働省が発表した3月の雇用統計によれば、非農業部門雇用者数変化は23.6万人増とブルームバーグの予想中央値23.0万人増を上回った。また、50万人超だった1月の雇用者数は47.2万人に、2月のそれは31万人超から32.6万人にそれぞれ修正された。
雇用者数の伸びは再び鈍化している。だが、失業率が3.6%から3.5%へと低下したことで、アメリカの労働市場が未だに底堅さを維持していることを各市場の参加者に意識させるだろう。
なお、次回の連邦公開市場委員会(FOMC、5月1日~2日開催)では25ベーシスポイント(bp)利上げの確率が一時70%台へ到達する局面が見られた(本日12時30分時点での25bp利上げ確率は66%前後)。
非農業部門雇用者数変化と失業の推移
3月に金融システム不安が発生して以降、アメリカ株式市場では景気の先行きリスクが急速に意識されている。
先週はさえない米経済指標、特に雇用関連の指標で総じて予想以下の内容が続いたことで、その懸念が高まった。
しかし、3月の雇用統計で労働市場の堅調さが確認された。平均時給(賃金)も前年同月比で低下のトレンドにある。賃金インフレが抑制傾向にあることも同時に確認されたことは、今週の米国株をサポートする要因になり得る。
平均時給の推移
今週の注目材料
インフレ関連の経済指標
インフレと金融引き締めのリスクから景気の先行きリスクへメインテーマがシフトしつつある今のアメリカ株式市場を考えるならば、強い経済指標は「悪いニュース」と捉えられてきたこれまでの見方から、強い経済指標は「良いニュース」、弱い経済指標は「悪いニュース」と素直に市場参加者に受け止められることが予想される。
しかし、インフレ関連の経済指標は別である。
今週12日に3月消費者物価指数(CPI)、13日に同月生産者物価指数(PPI)が発表される。昨年の3月をピークにPPIは鈍化の傾向にある。一方、CPIは昨年6月以降、鈍化のトレンドを形成している(下のチャートを参照)。だが、いずれも物価目標の2.0%前後からはまだ高い水準で推移している。
ゆえに、今週の物価指標が予想以上となればインフレ圧力の根強さが意識されることで、良好な3月雇用統計の影響を打ち消すことが予想される。
逆にインフレ鈍化の傾向がより鮮明となれば、3月雇用統計の良好な内容も意識されることで、米国株は上昇ムードの高まりが予想される。後者のケース(物価指標でインフレの鈍化が確認されるケース)は米金利の低下要因となるため、グロース株が選好されることが予想される。
株価指数では、ハイテク株の比率が高く金融セクターの影響を受けないナスダック100指数(NDX)の上値トライが予想される。
インフレ率の推移:前年同月比
3月の小売売上高
現在のアメリカ株式市場では、景気の先行きリスクが意識されていると上で指摘した。景気の先行きを考える上で、個人消費の動向は重要である。
今週14日に3月の小売売上高が発表される。市場予想は前月と同じく0.4%減となっている。一方、自動車を除いたコア指数は0.4%減と前月の0.1%減からさらに低下する見通しとなっている。小売売上高が予想以上に低下する場合は、景気の先行きリスクに対する懸念が高まることで米国株の下落要因となろう。
また、下で述べる米銀決算で投資家の心理を冷やすガイダンスが重なる場合は、ボラティリティの拡大を警戒しておきたい。
小売売上高の推移
企業決算シーズンに突入 注目は14日の米銀決算
上で取り上げた経済指標の他、アメリカ株の変動要因として今週注目しておきたいもうひとつの材料が、アメリカ企業の四半期決算である。
14日にJPモルガン・チェース(JPM)、ウェルズ・ファーゴ(WFC)、シティグループ(C)など大手米銀の決算が発表される。
3月に発生した米銀の連続破綻を受けて、連邦準備制度理事会(FRB)が設けた金融機関への資金供給制度の利用額が過去最高を更新し、一時は約8兆7,000億ドルまで膨れ上がる局面が見られた。
3月下旬以降、バランスシートは再び縮小の傾向にある。しかし、金融システム不安を受け年初来で40.7%も株価が急落した貯蓄貸付(S&L)持株会社チャールズ・シュワブ(SCHW)への不信感は根強く、そのチャールズ・シュワブの株式を保有しているカナダ2位の銀行トロント・ドミニオン銀行(TD)が空売りの対象となるなど、金融システム不安が再燃するリスクが水面下でくすぶり続けている。
FRBのバランスシート
そして、主要銀行で構成するKBW銀行株指数のトレンドを確認すると、底値圏での推移が続き上昇トレンドへ回帰するムードはない。
将来の先行きリスクを意識し、今回の四半期決算で各大手銀行がこぞって弱気のガイダンス(将来の見通し)を示す場合は、金融セクターを中心にリスク回避の展開となる可能性がある。
さえないガイダンスと上で述べた物価指標でインフレ圧力の根強さが確認される場合は、米国株全体でボラティリティの拡大が予想される。
KBW銀行株指数のチャート
株高でも出来高は少ない
米国株のボラティリティ拡大を警戒する他の理由として、低調な出来高が挙げられる。
機関投資家がベンチマークとして採用しているS&P500種株価指数(SPX)の出来高を確認すると、3月中旬以降、株価は反発トレンドにある。一方、出来高は3月17日の下落局面で出来高が急増したが(下の赤バーを参照)、その後は横ばい推移、もしくは減少する局面が見られた。
S&P500指数のチャート
先行指標のラッセル2000指数は軟調地合いを維持
一方、アメリカ小型株の指標であるラッセル2000指数(RUT)は、1,800ポイントの水準がレジスタンスとなり株価の上昇幅が止めらた。かつ出来高は、S&P500指数(SPX)と同じく3月17日の下落局面で急増した以外に目立った伸びは見られない。
下落局面に先行する特性のあるラッセル2000指数の現状は、新たなリスク回避の要因があれば米国株の下落幅が拡大する可能性を示唆している。今週は、上で取り上げた3つの経済指標-消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)、小売売上高と米銀の決算内容がその要因となる可能性がある。
ラッセル2000指数のチャート
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