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ユーロドルの見通し、フランス総選挙と財政悪化の懸念が重しに、米PCEデフレーターも焦点に

今週はユーロ相場に注目したい。特にユーロドル(EUR/USD)は、フランスの総選挙に関するヘッドラインと5月のアメリカPCEデフレーターで上下に振れる展開が予想される。下値は1.06の維持、上値は10日線の突破が焦点となろう。


この記事のポイント

・今週の外為市場では、ユーロ相場の動向に注目したい
・今はフランスの政局と財政悪化の懸念が、ユーロ相場の重しとなっている
・5月の米PCEデフレーターもユーロドルの変動要因に
・ユーロドルのチャート分析、今週は1.06と10日線の攻防に注目したい


今週はユーロ相場に注目

今月6日から9日にかけて行われた欧州議会選挙では、欧州連合(EU)に懐疑的な勢力が躍進した。フランスでは極右政党の国民連合(RN)が支持を集めた。

この状況を受けマクロン大統領は、フランスの議会下院にあたる国民議会を解散し選挙を行うことを表明した。1回目の投票は今月30日に行われる。決選投票は来月7日に予定されている。

マクロン大統領が総選挙の賭けに打って出たことは、ユーロ安の要因となっている。この点を下のチャートで確認すると、対米ドルでユーロ安が進行していることが分かる(下のチャート、赤ラインを参照)。

ユーロ安は米ドル相場を下支えし、ドル指数(DXY)は上昇している(下のチャート、緑ラインを参照)。先週21日の外為市場では、重要なレジスタンスの水準「105.75レベル」を突破した。対英ポンドでもユーロ安の状況にある。

興味深いのは、対日本円の動向である。ユーロ安・円高は一時的な動きで終わり、6月中旬以降は反発の基調にある(下のチャート、黒ラインを参照)。この動きは、今の外為市場での円安圧力の根強さを示唆している。

今月30日に1回目の投票が迫る中、今週はフランス総選挙に関するヘッドラインとユーロ相場を中心に外為市場が動く可能性がある。

ユーロ相場の動向:月初来

ユーロ相場の動向:月初来 ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 6月21日までの動向

フランス総選挙と財政悪化の懸念

なぜ、フランスの総選挙がユーロ売りの要因となっているのか?マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党・国民連合(RN)の躍進を受け、フランス政治の先行き不透明感が高まっていることもその要因の一つである。

しかし最も注目すべきは、財政悪化の懸念にある。2020年初頭に発生したコロナパンデミックを受け、フランスの財政赤字は拡大している。2023年は1,733億ユーロの財政赤字となった。対GDP(国内総生産)比では5.5%の財政赤字となった。今年は5.3%に低下すると予測されているが、EUが定める上限の3%を大きく上回る状況にある。

国民連合は減税、電力や燃料に対する付加価値税の引き下げ、年金受給の開始年齢引き上げ見直しなどの政策を掲げている。いずれの政策も財政収支を悪化させる要因である。

経済紙の「レゼコー」や調査会社イプソスなどの世論調査では、国民連合の支持率がいずれも30%を超える状況にある。対してマクロン大統領率いる与党「再生」の支持率は20%前後と出遅れている。今回の総選挙で国民連合が議席の獲得数を大幅に伸ばせば、外為市場ではフランスの財政悪化懸念が強く意識され、ユーロ売りがさらに進行する展開が予想される。

フランス財政赤字と対GDP比の動向:2010年以降

フランス財政赤字と対GDP比の動向:2010年以降 ブルームバーグのデータで筆者が作成 / マイナス表記:財政赤字

ドイツと南欧の利回り格差が拡大

フランスの総選挙を控え、外為市場ではユーロ安優勢の状況にある。そして欧州の国債市場ではフランスの長期国債(10年国債)が売られ、ドイツ10年債利回りとの格差が急速に拡大している(下のチャート、赤ラインを参照)。この影響を受けてイタリアとスペインの利回りも上昇し、ドイツとの利回り格差が拡大している。

フランス国債は、ドイツ国債と比べると安全性は低いが、他の南欧諸国の国債と比べればリスクが低い。ゆえに「ミドルリスク・ミドルリターン」の資産として欧州の金融機関が投資の対象としている。

このため、総選挙でフランス国債にさらなる売りの圧力が高まる場合は、銀行株を中心に欧州の株式市場が下落する展開が予想される。欧州の株安が進行すればリスク回避の米ドル高を受け、ユーロドル(EUR/USD)はさらに下値をトライする展開が予想される。

フランス、南欧諸国とドイツの利回り格差:日足 24年以降

フランス、南欧諸国とドイツの利回り格差:日足 24年以降 ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 6月21日までの動向

アメリカのPCE価格指数にも注目

今週、フランスの総選挙に関する報道以外で、ユーロドル(EUR/USD)の変動要因として注目したいのが、28日に発表される5月のアメリカ個人消費支出(PCE)価格指数である(以下ではPCEデフレーター)。

現時点での市場予想を確認すると、総合とコア指数でともにインフレが鈍化の傾向を維持する見通しとなっている(下のチャートを参照)。

PCEデフレーターは、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策に大きな影響を与える物価指数である。ゆえにインフレの懸念を後退させる内容となれば、「米金利の低下→米ドル売り」の展開が予想される。

米ドル安はユーロドルのサポート要因となろう。ユーロ円(EUR/JPY)は根強い円安とユーロの買戻しを受け、171円台以上の攻防へシフトすることが予想される。

問題は、PCEデフレーターが予想外に上昇し、インフレの粘着性が確認される場合である。「フランス・リスク」がユーロ相場の重しとなるなか、アメリカのインフレ圧力の根強さまでが意識される場合は、ユーロドルの下落幅が拡大するだろう。

ユーロ円もユーロ安を受け、下値トライの展開が予想される。しかし、根強い円安がユーロ安の相殺要因となるだろう。10日線(今日現在169.53レベル)や21日線(今日現在169.65レベル)がサポートラインとして意識される展開を想定しておきたい。

アメリカ 個人消費支出(PCE)価格指数の動向:23年5月以降

アメリカ 個人消費支出(PCE)価格指数の動向:23年5月以降 ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 赤の棒グラフとドット:5月の市場予想

ユーロドル、今週の展望とチャート分析

下落の局面では1.0680と1.06の攻防が焦点に

今週のユーロドル(EUR/USD)は、さらなる下値のトライを意識したい。反発の局面では、戻り売りを意識したい。

日足チャートでユーロドルのトレンドを確認すると、欧州議会選挙の結果とフランス総選挙の不透明が意識され、6月4日を境にして下落トレンドへ転じている。

反発の局面では10日線がレジスタンスのラインとして意識されている。そしてMACDはデッドクロスへ転じた後ゼロラインを下回り、なおも低下のトレンドにある(下のチャート、赤矢印を参照)。

「フランス・リスク」がユーロ相場の重しとなっている状況を考えるならば、1.0680レベルの攻防が目先の焦点となろう。この水準を挟んで、フィボナッチ・エクステンション61.8%の水準「1.0681」とフィボナッチ・リトレースメント76.4%の水準「1.0675」が上下に展開している(下のチャート、赤矢印を参照)。

今週、ユーロドルが1.0680レベルを完全に下方ブレイクする場合は、1.06の維持が次の焦点として浮上しよう。今年3月から4月の中旬にかけて発生した下落の局面では、1.06レベルがサポート水準として意識された。

フィボナッチ・エクステンション76.4%の水準「1.0625」の下方ブレイクは、1.06をトライするサインと想定しておきたい。

ユーロドルのチャート:日足 今年3月以降

ユーロドルのチャート:日足 今年3月以降

TradingView提供のチャートで作成

反発の局面では戻り売りを意識したい

通貨オプション市場のリスクリバーサルの動きを確認すると、1週間のそれではユーロ安の警戒感が和らぐ状況が見られる。しかし1か月のそれに大きな変動は見られない(下のチャート、赤矢印を参照)。

上で述べたとおり今のユーロドル(EUR/USD)は10日線すら突破できない状況にある。MACDのトレンドも考えるならば、ユーロドルが反発しても、戻り売りを意識する局面にある。

ユーロドルとリスクリバーサルのチャート:日足 年初来

ユーロドルとリスクリバーサルのチャート:日足 年初来 ブルームバーグのデータで筆者が作成


ユーロドルの反発局面では、相場の上昇を止めている10日線を目先の上限と想定し、下のチャートにプロットしたフィボナッチ・リトレースメントの攻防に注目したい。

特に、レジスタンスの水準へ転換する可能性がある38.2%の水準「1.0702」レベルの攻防は重要となろう。また、61.8%の水準「1.0721」と76.4%の水準「1.0733」は10日線との絡みで、レジスタンスの水準として意識される可能性がある。

1時間足のRSIは横ばいで推移している。一方、ストキャスティクスは上昇基調にある。目先はストキャスティクスの動きに注目し、買われ過ぎの水準まで到達し後にデッドクロスが確認される局面でユーロドルが上で述べた各レジスタンスの水準をトライする場合は、相場の反落を警戒したい。

ユーロドルのチャート:1時間足 6月19日以降

ユーロドルのチャート:1時間足 6月19日以降

TradingView提供のチャートで作成


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