【ドル円の週間見通し】 パウエルFRB議長「時が来た」 ドル安鮮明に 焦点は9月の利下げ幅
パウエルFRBは、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降、緩和サイクルへ転じるだろう。外為市場では米ドル安のトレンドが鮮明となっている。ドル円はさらなる下値のトライを意識する局面にある。今週の見通しは?注目のチャート水準は?
記事のポイント
・パウエルFRBは9月のFOMC以降、緩和サイクルへ転じるだろう
・FRBの政策転換が意識され、米ドル安トレンドが鮮明となってきた
・9月FOMCの焦点は、利下げの幅となろう
・ドル円、今週の見通しと注目のチャート水準について
パウエルFRB議長「時が来た」
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は先週23日、年次経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で講演した。インフレの抑制に自信を示すと同時に、労働市場のさらなる冷え込みに対応する姿勢を鮮明にした。
そして、利下げについてパウエルFRB議長は、「The time has come for policy to adjust(政策を調整する時が来た)」と宣言した。
一連のパウエル発言は、政策の軸足がインフレの抑制から経済、特に労働市場を下支えすることにシフトすることを示唆している。
市場の関心は利下げの幅
パウエルFRB議長の講演を受け、短期金融市場ではFRBが今年12月までに1%の利下げを決定する可能性を織り込む状況にある。年内の米連邦公開市場委員会(FOMC)はあと3回。短期金融市場の見通しが正しいと仮定する場合、どこかの会合で0.5ポイントの大幅利下げが必要となる。
どのFOMC会合でそれを決定するのか?早ければ、それが9月になる可能性がある。CMEのFedWatch ツールによれば、パウエル講演で9月の0.5ポイント利下げの確率が一時38%まで上昇した。しかし、先週24日の時点では再び20%台へ低下している。
注目すべきは8月上旬の動向である。景気懸念が意識された局面での0.5ポイント利下げの確率が85%まで急上昇する局面が見られた。その後、良好な経済指標を受けて過度の景気懸念が後退。0.5ポイント利下げの確率は現在、24%まで低下している。
これら一連の動きを考えるならば、今後発表される経済指標が景気の減速または後退の可能性を示唆する場合、0.5ポイント利下げの確率が再び上昇することが予想される。
9月FOMCの利下げ確率の推移:8月以降
経済指標で揺れる利下げ幅の思惑
今週30日に7月の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)が発表される。インフレの鈍化傾向が確認される場合は、9月の大幅利下げ期待を高める要因となろう。
だが、上で述べたとおりパウエルFRBは政策の軸をインフレの抑制から景気の下支えにシフトしていくだろう。ゆえに、9月利下げの思惑を左右する経済指標としてより注視したいのが、27日の8月消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード)と29日の新規失業保険申請件数である。
8月の消費者信頼感指数
消費者信頼感指数はアメリカ消費者の心理を反映した指数である。そして、個人消費の先行指標として注目されている。8月は、前月の100.3から100.6に小幅ながら上昇することが見込まれている。
筆者が注目しているのが、期待指数の動向である。コンファレンス・ボードによれば、期待指数が「80」を下回ると景気後退の可能性が高まるという。今年の2月以降、期待指数はその80を下回り続けている。しかし、4月に底を打った後は改善の傾向にある。8月もこの傾向を維持する場合は、9月の0.5ポイント利下げの期待が後退しよう。このケースでは、米金利の反発と米ドルの買戻しを想定しておきたい。
一方、期待指数も含めて消費者マインドの縮小が確認される場合は、0.5ポイント利下げの期待を高める要因になり得る。
米国 消費者信頼感指数:23年以降
緩やかに軟化する米国の労働市場
これからパウエルFRBは、労働市場の下支えに注力するだろう。ゆえに、雇用関連の経済指標も9月利下げの思惑を左右するだろう。
週間ベースで発表される新規失業保険申請件数は今後、外為市場のみならず他の市場の参加者も重視する指標の一つとなろう。
過去1年間のトレンドを確認すると、新規失業保険申請件と4週移動平均は今年の5月を境に増加の傾向へ転じている。しかし、直近はその基調が一服している。一方、失業保険継続受給者数の推移を確認すると、今年4月の下旬を境に、緩やかな増加の傾向を維持していることが分かる。これら一連の状況は、アメリカの労働市場が緩やかに軟化している状況を示唆している。
当然、パウエルFRBもこの状況を把握している。パウエルFRB議長は23日の講演で、力強い労働市場を支えるために「できることは全てやる」と強調した。労働市場の急速な冷え込むを避けるため、先を見越して対応していくという強い意志がうかがえる。
7月の雇用統計で失業率が4.3%へ上昇して以降、FRBだけでなく外為市場の参加者も労働市場の動向に注目している。ゆえに、新規失業保険申請件で労働市場の軟化が確認される場合は、9月FOMCでの0.5ポイント利下げの期待を高める要因となり得る。
米国 新規失業保険申請件と失業保険継続受給者数:2023年8月以降
ドル円の週間展望とチャート分析
止まらない米ドル安
8月以降、外為市場では米ドル安のトレンドが鮮明となっている。対主要通貨のパフォーマンスを確認すると、メキシコペソやトルコリラといった一部の新興国通貨を除き、米ドル安が進行している。
米ドル相場のトレンドを示すドル指数(DXY)は年初来安値を更新し、昨年12月28日の安値100.61レベルをトライする局面にある。
米ドル相場のパフォーマンス:月初来
過去3年間の上昇トレンドを象徴するラインの攻防
5月以降、日米の利回り格差は縮小のトレンドへ転じている。パウエルFRBは9月のFOMCを境に、緩和サイクルへ転じるだろう。この点が意識され、8月以降、利回り格差の縮小傾向がより鮮明となっている(下のチャートを参照)。
この状況は、ドル円(USD/JPY)の重しとなろう。事実、ドル円の反発は抑制され、先週23日の市場では144.04レベルまで下落する局面が見られた。
日米の利回り格差:2024年以降
週足チャートでドル円のトレンドを確認すると、52週線と23年1月の安値を起点としたトレンドラインを完全に下方ブレイクしている。
ゆえに今週は、21年9月の安値レベルを起点とした「もうひとつのサポートライン」の攻防に注目したい。このラインは、約3年にわたり続いた「ドル高・円安」を象徴するトレンドラインである。そのラインを下方ブレイクすることは、トレンド転換の重要なシグナルが点灯することになる。
ドル円のチャート:週足 2021年以降
出所:TradingView
141円の維持が焦点に
今週も米ドル安が進行すれば、ドル円(USD/JPY)は上で述べたトレンドラインを下方ブレイクするだろう。
ドル円の下落幅が拡大する場合、目先の焦点は144円の維持となろう。テクニカルの面では、先週23日の下落を止めたフィボナッチ・エクステンション38.2%の水準144.23レベルの攻防に注目したい。
今週以降、経済指標が9月FOMCの0.5ポイント利下げの期待を高める場合、ドル円は144円を完全に下方ブレイクするだろう。このケースでは、半値戻しの水準142.63レベルを視野に下落幅が拡大する展開を警戒したい。
ドル円が142.63レベルをも難なく下方ブレイクする場合は、141円の維持が焦点として浮上しよう。141.00はフィボナッチ・エクステンション61.8%の水準(141.04)にあたる。8月5日の安値141.69レベルの下方ブレイクは、141.00をトライするシグナルと想定しておきたい。
ドル円のチャート:2時間足 7月25日以降
出所:TradingView
10日線のブレイクすら高いハードルに
上の2時間足チャートを見ると、ストキャスティクスは売られ過ぎの水準でゴールデンクロスへ転じている。RSIも下げ止まっている(いずれも上の2時間足チャート、赤矢印を参照)。ドル円(USD/JPY)が144円レベルで短期的な調整相場(反発)となる場合、目先の焦点は10日線の攻防となろう。この移動平均線は今月20日以降、相場の反発を止め続けている(下の日足チャート、緑ラインを参照)。
9月以降、パウエルFRBが緩和サイクルへ転じる可能性が高いこと、米金利の低下、そして日米利回り格差の縮小傾向を考えるならば、今のドル円にとっては、10日線の突破すらハードルが高い。今週もこの移動平均線で相場の反発が止められる場合は、上で取り上げたサポート水準のトライおよび下方ブレイクを想定しておきたい。
ドル円が10日線を突破しても、7月以降の下落トレンドを象徴する短期の上値抵抗線と21日線が控えている。また、7月の高値と現時点での8月安値のフィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準149.42レベルでダブルトップを形成する可能性も残る。ドル円の反発局面では、常に戻り売りを意識したい。
ドル円のチャート:日足 今年5月以降
出所:TradingView
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