【IG米国株レポート】 焦点は9月の消費者物価指数 / 反発ムードに水を差す米長期金利の高まりと中東の地政学リスク
9月の雇用統計を受け、米国の主要な株価指数は上昇した。しかし、今週の米国株が上昇基調へ転じることができるかどうか?は、インフレ関連の経済指標とその内容を受けた米長期金利の反応次第となろう。中東の地政学リスクを受け原油高が再び進行すれば、米国株の下落要因になり得る。詳細はIG米国株レポートをご覧ください。
※S&P500種株価指数(SPX)の見通しについては、こちらのレポートをご覧ください
サマリー
・6日の米国株は上昇したが、米長期金利は高止まりの状況にある
・今週の米長期金利は、インフレ関連の経済指標で上下に振れる展開が予想される
・インフレ鈍化でも米長期金利が高止まりすれば、米国株の下落を警戒しておきたい
・また、中東の地政学リスクは米長期金利の上昇と米株安の要因となる可能性がある
9月米雇用統計は強弱まちまちの内容に
9月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が33.6万人増となった(前月比)。市場予想の17.0万人増を上回り、かつ過去8カ月で最大の伸びとなった。また、7月と8月分の雇用者数も計11.9万人上方修正された。
一方、失業率は3.8%と前月から横ばいとなり、市場予想の3.7%を上回った。
市場参加者が注視している平均時給は前月比で0.2%増、前年同月比で4.2%増と賃金インフレが抑制の傾向にあることが示された。
米国の雇用統計 各項目の動向:月次 22年9月以降
米国株は上昇で反応
9月雇用統計の結果に対して主要な米国の株価指数は上昇で反応した。
多くの機関投資家が運用のベンチマークとするS&P500種株価指数(SPX)は前日比で約1.2%上昇し、4,300ポイント台を回復した。
一方、大型ハイテク株の買いを受け、ナスダック総合指数と100指数(NDX)はともに他の株価指数よりも上昇幅が拡大した。
米株価指数のパフォーマンス:10月6日の動向
高止まりする米長期金利
9月雇用統計の発表直後、米債市場では長期金利が上昇で反応した。その後低下するも、終盤に再び4.8%台の水準を回復する展開となった。
6日の米長期金利の動きは、強弱まちまちとなった9月雇用統計の内容を完全に消化し切れなかった米債市場の戸惑いがうかがえる。
米長期金利のチャート:5分足 9月雇用統計発表後の動き
筆者が注目したのは、賃金インフレの抑制傾向が確認されても、米長期金利が4.8%を挟んで底堅さを維持した事実である。
米国株は確かに上昇して終えた。しかし6日の株高は、「雇用の増加と賃金インフレの抑制」を市場参加者が買戻しの要因として都合よく解釈した結果であったと筆者は考えている。
今後の米国株の動向を考えるうえで重要な指標は、やはり米金利の動向となろう。特に今は、長期金利が米国株のトレンドを左右する状況にある。
この点について下のラインチャートで確認すると、今年3月に発生した金融システム不安(地銀リスク)が下火になって以降、AIを一大テーマとした株高トレンドが発生した。この間の米株高は、長期金利上昇の影響を跳ね除ける程強かった(下チャートの緑ゾーンを参照)。
しかし今夏、その株高トレンドに変調が見られると、8月以降は「米長期金利の上昇→米株安」、「米長期金利の低下→米株高」の状況へと転じている。つまり現在は、株価と金利が正常な関係に戻っている状況にあるということである(下チャートの赤ゾーンを参照)。
今の米国株が上の状況にあること(チャートの赤ゾーンの状況にあること)を考えるならば、下で述べるインフレ関連の経済指標と中東の地政学リスクが米長期金利の高まりの要因または上昇要因となれば、今週は米株安を警戒する必要があろう。
S&P500指数と米長期金利の動向:日足 年初来
焦点は9月の消費者物価指数と長期金利の反応
その米長期金利の動向を考えるうえで、今週はインフレ関連の経済指標の内容に市場参加者の耳目が集中しよう。
11日に9月の生産者物価指数(PPI)、12日に同月の消費者物価指数(CPI)そして13日に10月のミシガン大学期待インフレ率が発表される。いずれも米長期金利の変動要因になり得る経済指標である。
なかでも市場参加者の注目度が高いのが、9月CPIである。レポート掲載時点での市場予想は、総合とコア指数でともにインフレの鈍化が予想されている。
米国 消費者物価指数の推移:月次 22年9月以降
9月CPIでより注目すべきは、予想どおりにインフレの鈍化が示される場合の米長期金利の反応である。
上で述べたとおり、9月の雇用統計では賃金インフレが抑制傾向にあることが確認された。また、個人消費支出(PCE)価格指数は昨年の9月以降鈍化の傾向へ転じ、直近(8月)は前年同月比で3.9%と4.0%の水準を下回ってきた。
それでも米長期金利は4.8%前後で高止まりしている。30年債利回りは先週、節目の5%に到達する局面が見られた。
これらの動向を考えるならば、9月CPIでインフレの鈍化傾向が確認されても、米長期金利は高止まりの状況を維持するか、または上昇で反応する可能性がある。
米長期金利が上昇基調を維持すれば、米国株の下落要因となろう。先週6日の流れを引き継ぎ今週前半に米国株が反発基調を維持しても、9月CPIでそのトレンドが急転換する可能性を警戒しておきたい。
中東の地政学リスクと原油先物価格の動向も注視する必要あり
イスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃により、中東情勢が緊迫している。
米国防総省は8日、原子力空母ジェラルド・フォードを東地中海に展開することを発表した。イスラエルの援護だけでなく、今回の衝突に乗じてイランが地域の混乱に拍車をかけることを阻止する狙いがあるとの見方がある。
今後の中東情勢を見極めるうえで重要となってくるのが、米国・イラン情勢である。今回の衝突の裏にイランが関与していると米国が断定しイランの制裁に踏み切れば、中東の地政学リスクがさらに高まり、下落基調にある原油先物価格の上昇要因となろう。
なお、米政府高官は7日にイランの関与について判断するのは"時期尚早"と述べた。一方、米紙ウォールストリートジャーナルは、イランが数週間にわたり今回のイスラエル攻撃を支援していたとの記事(Iran Helped Plot Attack on Israel Over Several Weeks)を掲載した。
原油高はインフレの低下を阻む要因となる。「原油高→インフレリスクの再燃」の観測が高まれば、米長期金利の上昇になり得る。
原油高と米長期金利が同時に発生する場合は景気減速の懸念が高まることが予想される。この懸念の高まりは、米国株の下落要因となろう。
NY原油先物価格(WTI)は現在、短期サポートラインを下方ブレイクし下落ムードにある。
しかし、6日に半値戻しの水準81ドルの上で陽線が示現した。ストキャスティクスは売られ過ぎの水準でゴールデンクロスが示現している。
そして週明けのNY原油先物価格は、中東の地政学リスクが意識され85ドルの水準を一気に突破する状況にある。
今回の衝突がイラン情勢の緊迫化までを招き、中東の地政学リスクがさらに高まれば、NY原油先物価格は10日線(今日現在88.00レベル)や21日線(今日現在89.00レベル)を視野に連日陽線が示現する可能性がある。
週明けから原油高が進行し続ければ、今週の米国株は下値トライを警戒する1週間となる可能性があろう。
NY原油先物価格のチャート:日足 23年6月以降
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