調整ムードのNY金、米経済指標にらみの1週間、今日の注目指標と見通し

記事のポイント

・米金利の反発と米ドル高を受け、先週のNY金相場は上値の重い展開となった
・今週のNY金相場は、米経済指標で上下に振れる展開が予想される
・さえない米経済指標は、金価格の押し上げ要因となろう
・強い米経済指標は金の売り要因だが、米利下げ期待が下値を支えるだろう

今週のNY金は米経済指標にらみの展開に

2日のIG為替レポート「ドル円の週間見通し、経済指標次第では米ドル安の再燃も、今週はISM指数と雇用統計に注目」で述べたとおり、アメリカ個人消費の底堅さが材料視され、先週の米債市場で長期金利（10年債利回り）が3.9％台まで反発した。米長期金利の反発は外為市場で米ドルの買い戻しを促した。

これら市場の動きはNY金相場の重しとなった。スポットの金価格は現在、2,530ドルの水準がレジスタンスのラインとして意識されている。

今週のNY金も調整の反落相場が続くのか？それとも2,530ドルをブレイクアウトし、新たな高値水準の攻防となるのか？この鍵は米経済指標にある。

なぜ、米経済指標が重要なのか？その理由は、現在の米債市場で「景気」と「利下げ」がテーマとなっているからだ。

米連邦準備制度理事会（FRB）のパウエル議長は経済指標を精査し、金融政策の方向性を決めてきた。この姿勢は今後も続くだろう。今週はアメリカ経済の先行きを考えるうえで重要な経済指標がいくつか発表される。米金利はこれら指標の内容で上下に振れるだろう。米金利の動きは米ドルのトレンドを左右するだろう。

ゆえに、今週の金価格は米経済指標にらみの1週間となろう。

米ドル（ドル指数）と金スポット価格：24年6月以降

ブルームバーグのデータで筆者が作成

注目指標は米ISM製造業景気指数

今日は8月のISM製造業景気指数が発表される。7月の内容が市場予想を下回り景気不安をあおった経緯があるだけに、今回も材料視される可能性がある。

8月の市場予想は47.5と、前月の46.8から若干ながら改善する見込みにある。しかし、需要の動向を示す新規受注は縮小の傾向にある。雇用も抑制される状況にある。そして直近の1年間で総合指数が景気判断の分かれ目である「50」を上回ったのは、今年3月のみである。8月も予想外に製造業の活動が縮小する場合は、米金利の低下と米ドル安の要因となろう。さえない米経済指標は金価格の反発要因となろう。

一方、個人消費の底堅さが確認された状況でISM製造業景気指数が予想以上に強い内容となれば、米金利の上昇とドル高が予想される。ゆえに、強い米経済指標は金価格の調整相場（下落相場）が進行する要因となろう。

米国 ISM製造業景気指数：23年8月以降

ブルームバーグのデータで筆者が作成

また、今週5日には8月のISM非製造業景気指数、6日には同月の雇用統計がそれぞれ発表される。詳細は2日に掲載したIG為替レポートで述べたが、これらの経済指標は、今晩のISM製造業景気指数以上に米債市場や米ドル相場に大きな影響を与えることが予想される。ゆえに、金価格もこれらの経済指標で変動幅が拡大する展開を想定しておきたい。

NY金、今日の見通しとチャート分析

上値の焦点は2,530ドルの突破

今晩のISM製造業景気指数が市場予想を下回る場合は、「米金利の低下→米ドル売り」が予想される。NY金のスポット価格は反発相場を想定しておきたい。

金価格の反発局面では、10日線の突破が最初の焦点となろう。この移動平均線は今日現在、2,509レベルで推移している。

金価格が10日線を上方ブレイクする場合、次の焦点は8月28日以降レジスタンスの水準として意識されている2,528レベルの突破となろう。

金価格が2,528レベルをも完全に突破する場合は、8月20日の高値2,531レベルのトライおよびブレイクアウトが焦点に浮上しよう。しかし5日以降、ISM非製造業景気指数と雇用統計の発表が控えている。本日、金価格が反発しても2,528レベルで反落する展開を想定しておきたい。

金価格：日足 6月下旬以降

出所：TradingView

下落の局面では2,480の維持が焦点に

日足のRSIはデッドクロスへ転じている。MACDもデッドクロスへ転じている（いずれも上の日足チャートを参照）。売りシグナルが点灯する状況でISM製造業景気指数が市場予想を上回る場合は、金価格の調整相場（下落）がさらに進行する展開を想定しておきたい。

このケースでは、2,480ドルを目先の下限と想定したい。このチャートポイントは7月17日の高値水準であり、8月22日の下落相場を止め「サポート転換」が確認された経緯がある（上の日足チャートを参照）。また、8月15日の安値と8月20日の高値の半値戻しの水準でもある（下の1時間足チャートを参照）。テクニカルの面でも、2,480レベルは重要なサポート水準といえよう。

昨日、相場をサポートした21日線は今日現在、下の1時間足チャートにプロットしたフィボナッチ・リトレースメント38.2％の水準2,493付近で推移している。2つのテクニカルラインが重なる2,490レベルの下方ブレイクは、2,480レベルをトライするシグナルと捉えたい。

1時間足のMACDとRSIで短期的な相場のトレンドとモメンタムを確認したい。上で取り上げた上下のチャート水準を金価格がトライする局面において、MACDとRSIで同時にシグナルが点灯する場合は、売買タイミングの参考としたい。

金価格：1時間足 8月中旬以降

出所：TradingView

米利下げ期待が下支え要因に

今週の経済指標でアメリカ経済の先行きに対する楽観的な見方が強まる場合、金価格は2,480ドルのサポート水準を下方ブレイクする可能性がある。

しかし、米連邦準備制度理事会（FRB）の金融政策は、9月の連邦公開市場委員会（FOMC）を境に緩和サイクルへ転じるだろう。

現時点で短期金融市場では、今年12月末までにFRBが4.3％前後まで政策金利を引き下げる可能性を織り込む状況にある。つまり、どこかの会合で0.5ポイントの大幅利下げが行われることを織り込んでいる。

強い米経済指標は、大幅利下げの期待を後退させる要因となろう。しかし、パウエルFRB議長はインフレの鈍化に自信を示すと同時に労働市場の冷え込みを警戒している。FRBの高官からも利下げ政策への転換を支持する声が聞かれる。ゆえに、単月の経済指標が強い内容となっても、緩和サイクルの方向性を転換させるほどのインパクトはないだろう。

FRBの緩和サイクルは米金利の低下と米ドル安の要因である。ゆえに金価格の下落局面では、押し目買いのタイミングを常に意識しておきたい。

米政策金利の予想推移

ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 9月3日 午前9時時点の予想