不意打ちの円高、米経済指標にらみのドル円、ドル円にらみのポンド円
8月の米ISM製造業景気指数が精彩を欠いた内容となり、米国の景気懸念に再び火がつきつつある。外為市場では、市場参加者の不意を衝く円高が発生。ドル円は4日の東京時間に145円割れの局面が見られた。クロス円でも円高のムードが漂う。ポンド円は21日線の攻防に注目したい。
記事のポイント
・今日以降の米経済指標次第では、景気懸念が再燃する可能性がある
・リスク回避相場が再来すれば、外為市場は円高優勢の展開を想定しておきたい
・ドル円は一時145円をブレイク、ドル円の下落はポンド円の下落をけん引しよう
・ポンド円の短期見通しと注目のチャート水準について
不意打ちの円高
4日のIG米国株レポート「鬼門の9月、米国株は波乱のスタート、ナスダック100は3%安、下落相場の再来を警戒」で述べたとおり、精彩を欠いた8月のISM製造業景気指数が景気懸念に再び火をつけつつある。
事実、昨日のアメリカ株式市場では主要指数が総崩れとなった。一方、米債市場では10年債利回り(長期金利)が3.81%まで急低下した。
株安と金利の低下が同時に発生した典型的なリスク回避相場を受け、4日の外為市場は円高優勢の展開となった。特に、リスク資産との連動性が高いオセアニア通貨や新興国通貨を中心に円買いが進行した。日米株式市場の急反発で円高のムードがじわりと後退していただけに、昨日の円高は市場参加者の不意を衝いた。
円相場の動向:9月3日
ブルームバーグの為替データで筆者が作成
ドル円は再び下落を意識する状況に
ドル円(USD/JPY)は今日の東京時間序盤に145円を下抜け、安値144.89レベルまで下落する局面が見られた。
通貨オプション市場のリスクリバーサル(1週間と1ヶ月)はドルプットへ転じつつある。一方、予想変動率では1週間のそれが、8月上旬以来となる15%台まで上昇している。これらの動きは、通貨オプション市場の参加者が短期的なドル円の下落を再び警戒していることを示唆している。
ドル円のリスクリバーサルと予想変動率:日足 24年5月以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
4時間足チャートでドル円のトレンドを確認すると、フィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準149.35レベルで反発が止められ、現在はトライアングルの攻防にある。
RSIとMACDはデッドクロスへ転じている。難なく145円を下方ブレイクする局面が見られたこと、そして通貨オプション市場の動向も考えるならば、今のドル円はトライアングルの下限のブレイクを意識する状況にある。
ドル円がトライアングルの下限を下に抜ける場合は、144.00の下方ブレイクと8月26日の安143.45レベルのトライが焦点として浮上しよう。
ドル円:4時間足 7月以降
出所:TradingView
米経済指標にらみの状況が続く
円高がさらに進行するのか?この鍵を握るのがアメリカの経済指標である。今日は7月のJOLTS求人件数が材料視される可能性がある。詳細については、4日のIG米国レポート「鬼門の9月、米国株は波乱のスタート、ナスダック100は3%安、下落相場の再来を警戒」を参照されたし。
しかし、より注目したいのが明日の8月ISM非製造業景気指数と同月の雇用統計である。
前者のISM非製造業景気指数については、2日のIG米国レポート「最高値更新が視野に入るS&P500、注目の米指標はISM指数と雇用統計、懸念材料は?」で述べた。アメリカでは労働者の約8割がサービス業に従事している。ゆえに、景気懸念を意識させる内容となれば、製造業景気指数以上にリスク回避相場が進行する可能性があろう。米債市場では利回りがさらに低下し、日米利回り格差がさらに縮小しよう。日米利回り格差の縮小は、ドル円(USD/JPY)の下落要因となろう。
日米利回り格差とドル円:24年3月以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
後者の米雇用統計については、2日のIG為替レポート「ドル円の週間見通し、経済指標次第では米ドル安の再燃も、今週はISM指数と雇用統計に注目」で詳細に述べた。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は労働市場のさらなる冷え込みを警戒している。今日の7月JOLTS求人件数、明日の新規失業保険申請件数、そして6日の8月雇用統計がいずれも労働市場の軟化を示唆する場合は、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5ポイントの大幅利下げの期待が高まろう。このケースでは、米金利のさらなる低下と米ドル安の進行が予想される。円相場はドル円(USD/JPY)がけん引役となり、円高優勢の展開を想定しておきたい。
なお、短期金融市場では現在、パウエルFRBが今年12月末までに政策金利を現行の5.25-5.50%から4.3%台まで引き下げる可能性を意識している。今年のFOMCは残すところ後3回。短期金融市場の予測が正しい場合、1回は0.5ポイントの大幅利下げを行うことになる。
米政策金利の予想推移
ブルームバーグのデータで筆者が作成
ポンド円の短期見通し
ドル円にらみの状況
クロス円では190円の攻防にあるポンド円(GBP/JPY)に注目したい。年初来からのポンド円、ドル円、そしてポンドドルの相関関係を確認すると、ポンド円はドル円の動きと連動していることが分かる。
ポンド円、ドル円、ポンドドルの相関関係:年初来
ブルームバーグの為替データで筆者が作成
上で述べたとおり、そのドル円(USD/JPY)は経済指標にらみの状況にある。今日は7月のJOLTS求人件数が材料視される可能性がある。労働市場の冷え込みを示す内容となれば、「米金利の低下→米ドル売り」を受け、ドル円は144円台の攻防へシフトすることが予想される。ドル円の下落に追随し、ポンド円も下落幅が拡大を想定しておきたい。
21日線の攻防が焦点に
ポンド円(GBP/JPY)の動向を日足チャートで確認すると、7月高値と8月安値の半値戻しの水準194.11レベルの手前で相場の反発が止められている(下の日足チャート、赤矢印を参照)。
ドル円(USD/JPY)が下値トライのムードにあることも考えるならば、今日のポンド円は21日線の攻防を意識したい。この移動平均線は今日現在190.00レベルで推移し、東京時間の下落を止めた経緯がある。
ドル円が144円台へ下落する場合、ポンド円は21日線を下方ブレイクすることが予想される。このケースでは、サポートラインへ転換する可能性のある188.00レベルの維持が焦点となろう。フィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準188.37の下方ブレイクは、188.00トライのサインと捉えたい。
187円以下の注目水準
米経済指標でドル安がさらに進行すれば、ドル円(USD/JPY)は141円を視野に下落幅が拡大する展開が予想される。このケースでは、ポンド円(GBP/JPY)の188円割れを想定しておきたい。
ポンド円が187円以下の攻防となる場合は、8月の安値と9月2日の高値の半値戻しとフィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準以下の攻防に注目したい。前者の半値戻しの水準186.80レベルは、「サポート転換」を意識する水準である。フィボナッチ・リトレースメント76.4%の水準183.26レベルは8月6日と7日に相場をサポートした経緯がある。
ポンド円:日足 24年7月以降
出所:TradingView
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