フラッシュクラッシュとは? 発生原因と過去の事例から解説
何の前触れもなく、突然相場が大きく動くことを「フラッシュクラッシュ」といいます。フラッシュクラッシュが発生する原因については色々な議論がありますが、詳細なメカニズムについては未だ解明されていません。 ここでは、フラッシュクラッシュが発生する原因、過去の例、そして予防できるのかどうか?これらについて考えてみます。
フラッシュクラッシュとは?
あらゆる市場で、ごく短い時間に突然相場が急落し、その後急騰する現象がみられます。これを「フラッシュクラッシュ」といいます。
中には、フラッシュクラッシュを好む投資家がいます。市場のボラティリティが拡大することを取引のチャンスと考えるからです。どの市場で取引きするにせよ、ボラティリティは重要です。ボラティリティが拡大-つまり価格の変動幅が拡大すれば、取引のチャンスが増えるからです。特に現代はコンピューターが人間に代わり、ボラティリティが拡大している(取引チャンスが増えている)時に、アルゴリズムによる高頻度取引(以下ではアルゴリズ取引きを表記)が主流となっています。この取引は大量の注文を高速で執行できます。また、マージン(証拠金)で取引されることもあります。しかし、ボラティリティは突然急拡大することがあります。この場合、往々にして価格は急落します。フラッシュクラッシュが発生しても、ほとんどの人はそれが起こったことに全く気が付きません。大体が、わずか数秒から数分のうちに終わってしまうからです。(フラッシュクラッシュの中にはもっと長く続くケースもあります)。
フラッシュクラッシュの典型的な動きは、「急落→急騰」です。価格自体はすぐに元の水準まで回復する傾向にあります。しかし、フラッシュクラッシュによって被った損失額をすぐに回復させることはできません。「急落→急騰」のスピードがあまりにも早いため、フラッシュクラッシュを極端なボラティリティのバースト以外、何ものでもないと考える投資家もいます。
フラッシュクラッシュは通常「急落→急騰」というかたちで発生しますが、全く逆のかたちで発生することもあります。つまり「急騰→急落」というかたちで発生するということです。この場合、相場の急騰により発生した利益のすべて、または大部分を一瞬にして失ってしまう可能性があります。このケースは一般的ではありませんが、一番良い例としては通貨が挙げられます。通貨はペアで取引されているため、ある通貨の価格がフラッシュクラッシュによって急騰した場合、別の通貨の価格が急落することが時々見られます。
フラッシュクラッシュが起こる原因
フラッシュクラッシュが起こる原因はいくつかありますが、主にヒューマンエラーとアルゴリズム取引が原因と考えられています。
人間がフラッシュクラッシュを起こす原因とは?
過去には人為的ミス、いわゆるヒューマンエラーが原因でフラッシュクラッシュが起きたことがありました。これは、投資家やファンドマネージャーが注文を出す際、うっかりして余分な数字を入力するか、間違った価格で注文を出してしまったことがきっかけで発生します。こうしたエラーはしばしば、「ファットフィンガーエラー」と呼ばれています。
「スプーフィング(見せ玉)」として知られる違法な方法で、ある投資家がマーケットを意図的に操作しようとする場合も、フラッシュクラッシュの原因となります。スプーフィングは、現在の市場価値からかけ離れた価格に大量の売り注文を出し、株価がその価格をヒットする前に素早くキャンセルする違法行為です。スプーフィングは大量の売り注文が入っていると、他の投資家に錯覚させます。この錯覚は、価格が下落する懸念につながり、結果、他の投資家に売り注文を出すよう駆り立てる効果があります。言い換えれば、スプーフィングは買いと売りの注文量のバランスを意図的に崩し、価格の下落幅を拡大させます。スプーフィングを行った投資家は、大量の売り注文を出すと同時に、その時の市場価値よりもはるかに低い価格で買い注文を出しています。そうすることで、安値で株式を購入することができます。そして急回復後に高い価格で株式を売り、利益を得るのです。
このようにスプーフィングは、わずか数秒で莫大な利益を上げることができるのです。なお、最初に出した売り注文は、買い注文が執行される前にキャンセルしておきます。
コンピューターがフラッシュクラッシュを起こす原因とは?
コンピューター取引の役割が拡大していることも、フラッシュクラッシュの原因となっています。例えば、ソフトウェアの不具合により、マーケットデータが正確に取得できないという問題があります。このため、正常な価格が提供されないといった問題が発生します。
コンピューターによるフラッシュクラッシュとして現在注目されているのが、アルゴリズム取引が原因で発生するフラッシュクラッシュです。この取引は、あらかじめプログラムされたアルゴリズムに基づいて、超高速コンピューターが電光石火のスピードで取引を行います。例えば、あなたはA社の株式を100米ドルで購入したとします。価格が90米ドルへ下落する場合と110米ドルへ上昇する場合、アルゴリズム取引によって自動的にその証券を売却するよう設定するとします。前者は損切りの売り注文、後者は利益確定の売り注文となります。株式を購入した後、証券価格が瞬間的に90米ドルまで急落する場合、アルゴリズムがそれを認識し損切りの売り注文が執行されます。そして、あなたのアルゴリズム取引が他の投資家が設定したアルゴリズム取引の売りトリガーとなり、売りが売りを呼ぶ展開になります。この連鎖が発生すると、電光石火の勢いで価格は急落します。
アルゴリズム取引は、予期せぬ価格の急落を招くことがある一方で、その後の急回復の原因にもなっています。なぜか?それは、他のアルゴリズム取引では価格が安すぎると判断するからです。上の例を再び用いると、90米ドルを下回る価格では買いと認識するアルゴリズム取引が発動すると、自動的にその株式を購入します。そのように命令されたひとつのアルゴリズム取引が発端となり、買いが買いを呼ぶ展開となります。そして、急落により生じた不均衡が急速に改善されていきます。
他のフラッシュクラッシュの原因として挙げられるのが、取引量が少ない時間帯です。取引量が少ないということは、流動性が低いということです。流動性が低いということは、売り買いの注文が執行され難い状況にあります。この状況で大量の注文が出されると、価格が一瞬にして上下に大きく変動することがあります。
フラッシュクラッシュ過去の事例
次に、複数の要因によって発生したフラッシュクラッシュの例について説明します。
2010年 ダウ・ジョーンズのフラッシュクラッシュ
2010年5月に発生したウォール街株価指数のフラッシュクラッシュは、わずか10分で1000ポイント以上の下落を記録しました。この下落は、当時としては最大の下落幅を記録しました。また、個別銘柄にはそれ以上に下落したものもありました。このフラッシュクラッシュにより、約1兆ドルの資産が消し飛んだとも言われています。ダウ平均は回復したものの、その日の取引終了までに戻した株価の水準は、取引開始前の70%分程度でした。
このフラッシュクラッシュの火付け役は、イギリス人投資家のナビンダー・シン・サラオという人物でした。彼は「ハウンズローの猟犬」や「フラッシュクラッシュ投資家」と呼ばれていました。2016年にスプーフィングとマーケット操作の罪を認め、有罪判決を受けました。米国証券取引委員会(SEC)によると、今回のフラッシュクラッシュは、シカゴ・マーカンタイル取引所を通じてE-mini 米国500先物契約の大量の売り注文を短時間に執行したことが原因と考えられています。サラオの裁判は今日も続いています。
一般的にフラッシュクラッシュは当初、急落で始まります。上の例でも価格が突然急落し、大量のアルゴリズ取引が次々に執行されました。取引の大部分は自動化されたプログラムで行われるため、アルゴリズム取引を行う多くの投資家は、他のアルゴリズム取引を行う投資家と取引することになります。そのすべての取引で、それぞれ独自の注文が設定されています。今回のフラッシュクラッシュは、サラオの不正な売り注文が発端となりアルゴリズム取引の注文が執行され、他のアルゴリズム取引の注文も執行されるという下降スパイラルに陥りました。
この時規制当局は、一定の時間内で許容できる価格の下落幅を設定する体制をすでに確立していました。一方、価格が短期間でどのくらい上昇するのか?これを設定するための新しいルールが導入されたのは、2010年のフラッシュクラッシュの後でした。実はこの時、多くの株式が急落する一方で、いくつかの株式は信じられないほどの速度で急騰していたのです。
2014年 米国債券市場のフラッシュクラッシュ
「グレートトレジャリー・フラッシュクラッシュ」として知られている米国の債券市場のフラッシュクラッシュは、2014年10月に発生しました。この原因についての議論は今日まで続いています。わずか12分で、米国10年債の利回りは、なんと1.6%も急低下し、その後1.6%急騰しました。これは1日の変動幅としては2009年以来で最大となりました。
米国の規制当局は、それから1年も経たないうちにこの事件に関する浅はかな報告書を発表し、投資家の不評を買いました。こうした指摘に応えて、規制当局はあらためていくつかの回答を提示したものの、最終的にはフラッシュクラッシュの原因を突き止めることができませんでした。取引ボリュームが通常の2倍あったこと、売り物の債券が通常よりもかなり少なく、流動性が低かったことが原因との指摘がありました。
最も興味深いのは、非難の矛先をアルゴリズ取引の投資家に向けたことでした。債券価格はフラッシュクラッシュの前に、供給よりも需要の拡大が意識されていたため上昇していました。価格が上昇したことにより、高値で利益を得るように設定された自動売買プログラムが執行される可能性が高まっていました。結局、これら売り注文の多くは執行されませんでしたが、他の投資家の目には債券を売却したいと熱望する人々の数が増加しているというように映りました。その結果、債券価格は下落し始めました。そしてアルゴリズム取引で設定された売り注文が、別の売り注文を執行する展開となり、債券価格が暴落した、というわけです。
アルゴリズム取引はすべて、モメンタムを追いかけることを中心に基づいて設定されていることをグレートトレジャリー・フラッシュクラッシュは示しています。規制当局の報告書によると、フラッシュクラッシュの間に執行された取引の多くは、アルゴリズム取引をする投資家の間で行われており、中には自分自身と取引しているケースもあったということです。つまり、この時のボラティリティの急拡大はアルゴリズム取引によって発生し、その責任は、そのような取引を行った投資家にあると報告書で指摘されました。さらに興味深いのは、アルゴリズム取引によって発生したグレートトレジャリー・フラッシュクラッシュは、最終的にアルゴリズム取引によって解消された、ということです。
2015年 ダウ平均再びフラッシュクラッシュに見舞われる
ダウ平均は2015年8月に、またもやフラッシュクラッシュに直面しました。この時は、最初の5分間で約1100ポイントも急落しました。これにより、取引停止の措置が取られました。一方、S&P 500指数も取引開始からわずか数分で5%急落しました。しかし、その日のうちに下落分をほぼ回復する展開となりました。このフラッシュクラッシュの影響は、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場している米国株に限定されました。
このフラッシュクラッシュについて時間を追ってみていきましょう。フラッシュクラッシュが発生したのは月曜日でしたが、その前の週の木曜日と金曜日に、週末リスクを意識した株売りがすでに発生していました。そして週明けの月曜日。アジアの株式市場は、取引が始まると急落しました。そしてニューヨーク時間に入ると、米国の株式もアジア株の下落に追随しました。最終的に売り注文が買い注文をはるかに上回ったことで、米国の株式市場では大きな不均衡が生じました。このため多くの取引が停止されました。その結果、株価指数や上場投資信託(ETF)の公正な価格を提示することが困難となりました。
2016年 英ポンド/米ドルのフラッシュクラッシュ
2016年10月、英ポンドは対米ドルで、1.26ドル台から1.14ドル台まで下落するフラッシュクラッシュに見舞われました。6%という驚異的な下落率でしたが、フラッシュクラッシュ後は価格が回復し、数時間のうちに1.24ドル前後へ急回復する展開となりました。このフラッシュクラッシュの原因も未だに特定されていません。ファットフィンガーエラー説やアルゴリズム取引説、もっと興味深いところではニュースの見出しやソーシャルメディアに反応するアルゴリズム取引が執行されたという説までありました。
最後の理由について考えてみましょう。アルゴリズム取引をする最大のメリットは、注文の執行スピードと人間の感情に惑わされることなく取引ができる、という点にあります。しかし、ニュースの見出しやソーシャルメディアに反応するアルゴリズムは、数字という客観的なデータではなく、アルゴリズム特有の「感情」が取引のベースになります。例えば、今回のフラッシュクラッシュは、当時英国の首相だったメイ氏とフランス大統領だったオランド氏によるブレグジットに関連したコメントのやり取りが、英ポンドにとって「悲観的」とアルゴリズムで評価され、大量の英ポンド売りにつながったとの指摘があります。
このフラッシュクラッシュでアルゴリズム取引が主犯とされている理由はもうひとつあります。それは、発生した時間帯です。英ポンドが急落したのは、為替市場の取引量が最も増えるロンドン時間や米国時間ではなく、アジア時間でした。英米時間と比べGBP/USDの流動性が低い時間帯に、あるアルゴリズム取引が作動し、その結果英ポンド相場が乱高下する展開となった、というわけです。
2017年 イーサリアムのフラッシュクラッシュ
暗号通貨(仮想通貨)の取引でフラッシュクラッシュを経験した投資家は世界中にいます。例えば2017年の半ば、現在では取引が廃止されているGDAX取引所でのイーサリアムの価格が、わずか数秒の間に319ドルから10セントに急落するフラッシュクラッシュが発生しました。急落後、イーサリアムはその日のうちに下落分はおろか、それ以上に上昇する展開となりました。
GDAXは当時、フラッシュクラッシュの原因として、数百万ドルの売り注文が価格を押し下げ、それが他の売り注文を執行する原因になった、と指摘しました。
2017年 貴金属先物のフラッシュクラッシュ
2017年7月、銀の先物市場でフラッシュクラッシュが発生しました。この時、銀先物は1トロイオンス=16.15ドル付近で取引されていましたが、何の前触れもなく一気に14.35ドルまで急落しました(11%の急落)。このフラッシュクラッシュも英ポンドの時と同じく、米英時間ではなく流動性の低いアジア時間で発生しました。
急落後、わずか数時間で価格は元の水準へ回復しました。銀先物のレートを発信しているNYNEX取引所(CME Group Inc (US))は、「ベロシティ・ロジック」により、10秒間ほど取引を停止しました。
2019年 ドル円と豪ドル/米ドルのフラッシュクラッシュ
2019年1月のフラッシュクラッシュは為替市場で発生しました。このフラッシュクラッシュのきっかけは、Apple社が中国経済の弱体化を指摘する発言だったと考えられています。この発言が、新興国通貨や豪ドルのようなリスク性の高い通貨を売却する動きを引き起こした、というわけです。特にオーストラリアの通貨豪ドルは、中国リスクに敏感に反応する特徴があります。よって、中国リスクが高まる局面では豪ドルの売り圧力が高まりやすいのです。その際、買われるのが日本円です。
豪ドルが売られ日本円が買われたことで、AUD/JPYは急落しました。わずか数分のうちに7%も下落したのです。この時は円買いだけでなく、安全資産とされる米ドルの買いも発生しました。
このフラッシュクラッシュは日本市場が休場の時に発生しました。英ポンドの時と同じく、流動性の低い時間帯で発生したのです。
フラッシュクラッシュを防ぐ方法とは?
フラッシュクラッシュの研究は現在進行形です。ヒューマンエラーが原因で発生することもありますが、現在ではコンピューター化されたシステムに端を発するフラッシュクラッシュに注目が集まっています。
フラッシュクラッシュの特徴を簡単にまとめると次の通りです。
1:何の前触れもなく、突然価格の変動幅が急激に拡大すること
2:価格が一瞬にして急落/急騰すること
3:価格の急変動は、往々にしてアルゴリズム取引が原因であること
また、流動性が低い時間帯に発生することもフラッシュクラッシュの大きな特徴です。流動性が低いということは、人間同士の取引量が極端に少ない状況にある、ということです。代わりに取引を執行するのはコンピューター、つまりアルゴリズでの取引です。流動性の低い時間帯にヒューマンエラーによる誤った注文が入力されると、それに反応したアルゴリズム取引が売りで反応し、別のアルゴリズム取引がまた売りで反応する…この連鎖が流動性の低い時間帯で発生することで、フラッシュクラッシュが発生するというわけです。
しかし、研究が現在進行形である以上、フラッシュクラッシュの明確なメカニズムは未だ不明です。よって、今後もフラッシュクラッシュは発生するでしょう。銀先物がフラッシュクラッシュに見舞われた後、CMEグループはアルゴリズムに対抗するための「セーフガードアルゴリズム」の増強を図りました。これは、取引を執行するシステムを管理するためのシステムを増強した、ということです。また、ニューヨーク証券取引所(NYSE)は、フラッシュクラッシュが発生した際、「サーキットブレーカー」で対応しています。これは、NYSEが予め設定した価格に市場の価格が到達する場合、一時的に取引を停止する措置です。売リ注文と買い注文のバランスが整ったことが確認できた後、サーキットブレーカーは解除され取引が再開されます。
こういった措置を取引所が講じるのは、フラッシュクラッシュの問題が現在のマーケット自身にあるからです。人間同士の取引は時に感情がベースとなり、取引量も限定的です。対照的にアルゴリズム取引は、どこかの国や地域で市場が開いていれば、プログラミングによって大量の注文を高速スピードで執行できます。テクノロジーの発展によって、ますますアルゴリズム取引が主流となっていくでしょう。それに伴いフラッシュクラッシュも発生するでしょう。その時、代償を払うのは人間です。そういった事態を可能な限り避けるためには、セーフガードアルゴリズムを強化するか、取引自体を停止する以外に現時点では方法がないのです。
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