安全資産の概要と取引方法
金融市場は、あるリスクイベントによって不安定な状況に陥ることがあります。その際、多くの投資家は自身の資産を守る目的でリスク資産から安全資産へ資金をシフトさせます。安全資産には様々な種類があります。この記事では安全資産の概要とその取引方法についてご説明します。
安全資産とは
安全資産とは、経済環境や金融市場が不安定な状況となっても価値の上昇が期待される金融商品のことをいいます。これらの資産は経済や金融市場の状況との相関が見られない、あるいは逆相関の関係にあります。このため相場の下落時に価値が上昇します。
安全資産には以下の特徴があります。
- 流動性:いつでもどこでも容易に換金が可能
- 機能性:長期的な需要を継続的に提供
- 供給量の限度:供給は常に需給以下
- 需要の確実性:少ないが確実に需要が見込まれる
- 永続性:時間の経過に関係なく価値が不変または希にしか変動しない。
すべての安全資産がこれらの特徴を備えているわけではありません。よって、投資家は相場の状況に最も適した安全資産を選択しなければなりません。景気の後退時にある安全資産を保有しても、それの価値が必ずしも上昇するわけではないのです。
安全資産の取引方法
経済や金融市場のトレンドはサイクル化しています。このため、常に景気の後退を意識する必要があります。実際に景気の後退局面では安全資産の需要が増すことで、その価値は上昇します。リスク性の高い金融資産に下落圧力が高まることで、資金の逃避先としての妙味が増すからです。

この際、株式等のリスク資産を空売りし安全資産買いを行うことで、投資家は利益を獲得することができます。景気が後退局面から脱する可能性が高まる時は、その逆の取引を行います。
もちろん投資家個々人によって、投資スタンスは異なります。このため安全資産に対する取引手法に絶対的なものはありません。しかし、経済や金融市場のサイクルを考えるならば、常に安全資産の取引を考えておくことは重要です。
安全資産の例
価値がめったに減価しない資産、価値の変動が小さい資産等々、安全資産には様々な種類があります。実際にどのような資産があるのか?そしてそれぞれの特徴とは?ここではこれらの点について考えてみましょう。
安全資産の一覧
- 金
- 国債
- 米ドル
- 日本円
- スイスフラン
- ディフェンシブ株
金
安全資産と聞いて真っ先に思い浮かべるのが『金』でしょう。金は各国中央銀行による金融政策の影響を受けることはありません。また、紙幣とは異なり供給量をコントロールすることもできません。このため資産防衛の際に最も投資家に好まれる商品です。
2008年に世界金融危機が発生した時の値動きを見てみましょう。2009年の1年間で金価格は約24%急騰しました。その後も2011年まで上昇トレンドを維持しました。
国債
『国債』とは、国家が発行する債券のことです。国債の種類は様々ですが、多くの投資家に選好されるのが米国債(米国財務省短期証券・米国財務省中期証券)です。国債にはそれぞれ期限が設定されています。例えば、米国財務省短期証券は満期が1年以下のものを指します。一方、米国財務省長期証券は満期までの期間が10年を超える場合があります。
多くの投資家は、先進国の政府が発行した債券に信頼をおく傾向があります。最も人気の高い国債は、米国財務省短期証券です。安全な避難先としての地位は、国家としての米国の信頼性と基軸通貨としての米ドルの価値よって担保されています。これらを背景に、米国債は満期を迎えると投資家に資金を還元します。このため米国債をはじめとした信用の高い国が発行する国債はリスクが少ない安全資産と見なされるわけです。
例えば、2018年10月に世界の金融市場が混乱すると、安全資産としての米国債の妙味が高まり、株式とは対照的に米国債の価格は急上昇しました。
米ドル
外為市場での安全資産の代表格は『米ドル』です。その理由は基軸通貨にあります。ブレトン・ウッズ協定以降、米ドルは基軸通貨としての地位を確保しました。基軸通貨とは、いつでもどこでも誰もが自由に換金でいる高い流動性を担保している通貨のことをいいます。基軸通貨であり続ける限り、米ドルは今後も安全資産のひとつとして多くの投資家に選考されるでしょう。
2017年にトランプ米政権が誕生して以降、常にその政治手法が議論の的になり続けてきたことから、米ドルは減価するのではないか?と、多くの投資家が懸念しました。確かに米ドル相場が変動する局面は見られました。しかし、安全資産としての地位は一向に衰えていません。直近の例でいえば、米中貿易摩擦が意識された局面(2018年1月から8月)で米ドルインデックスは、5.29%の増加となりました。
日本円
リスク回避の局面で米ドル以上に買い圧力が高まる傾向にあるのが『日本円』です。
第二次世界大戦後、日本経済は奇跡的な成長を遂げました。経済の発展は国際的な日本の信頼性を高め、通貨円は主要な国際通貨として認識されるようになりました。政府による継続的な市場介入があったにもかかわらず、円は常に高い流動性を確保してきました。
円が逃避先として選考される理由のひとつに経常黒字が挙げられます。日本が保有する外国資産の価値は、外国投資家が保有する日本資産の価値よりもはるかに高く、このため市場が「リスクオフ」になると、円に対する投資妙味が高まるというわけです。
スイスフラン
『スイスフラン』もリスクオフの局面で選考されやすい通貨です。
スイス政府の政治的中立性、好調な経済状況そして銀行セクターの発展等がスイスフランの安全性の担保となっています。
欧州連合(EU)からの独立によりスイスフランは、政治的および経済的な不況下で資金を移動する際、資金の避難先となりました。実際、欧州債務危機では、スイスの中央銀行が自国通貨を弱めるためにユーロに対して一時的な通貨ペッグ制を導入したことで、スイスフラン買い圧力が急速に高まりました。
ディフェンシブ株
景気の後退局面では、その影響を受けにくい『ディフェンシブ株』が選好されます。
ディフェンシブ株とは、公共施設、消費財、食品や飲料、ヘルスケアといった商品やサービスの提供をする企業の株式のことをいいます。景気が後退しても、これら企業が提供する商品やサービスには一定の需要があります。このため、ディフェンシブ株は安全資産とみなされるわけです。
本レポートはお客様への情報提供を目的としてのみ作成されたもので、当社の提供する金融商品・サービスその他の取引の勧誘を目的とした ものではありません。本レポートに掲載された内容は当社の見解や予測を示すものでは無く、当社はその正確性、安全性を保証するものではありません。また、掲載された価格、 数値、予測等の内容は予告なしに変更されることがあります。投資商品の選択、その他投資判断の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたしま す。本レポートの記載内容を原因とするお客様の直接あるいは間接的損失および損害については、当社は一切の責任を負うものではありません。 無断で複製、配布等の著作権法上の禁止行為に当たるご使用はご遠慮ください。