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植田日銀で物価上昇2%目標の修正はあるか アコード見直しに株安リスク

日銀の次期総裁候補の植田和男氏が24日に国会で所信を語る。近すぎるとも批判される政府との距離感の見直しも課題だ。

出所:ブルームバーグ

日本銀行の次期総裁として政府が国会に提示した経済学者の植田和男氏に対し、衆議院は24日に所信を聴取する。植田氏は金融政策のエキスパートとして高い見識があると期待されているが、総裁になれば市場との対話や政治への対応力も求められるだけに、注目の初舞台となりそうだ。日銀と政府は2013年1月の共同声明(アコード)で政策連携を強化し、日銀は物価上昇率2%を目標に金融緩和を推進すると表明。こうした内容は日銀の独立性を侵しているとの批判も多く、次期総裁は政府との関係性見直しも課題となるが、安易に手をつければ株安などの混乱も呼びかねず、おいそれとは口にできない現実もある。

問われる政治との距離感

植田氏は経済学者であるだけでなく、元日銀審議委員としても金融政策の実態に精通。景気認識が強気で政策金利引き上げに前向きなタカ派でも、景気認識が弱気で政策金利を低くしようとするハト派でもない、経済状況の実態に即した柔軟な政策運営を行う手腕があるとされる。ただ、総裁になれば日銀の考えを市場に伝える発信力も必要。さらに正副総裁や審議委員を任命する政府の理解を得つつ、金融政策の独立性は維持する距離感の維持も重要となる。

こうした中で注目を集めるのは日銀と政府の間で結ばれたアコードの存在だ。アコードが発表されたのは現在の黒田東彦総裁が就任する約2か月前。当時の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の伸び率は前年同月比マイナス0.2%で、デフレ脱却が急がれていた。アコードは早期のデフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向け、「政府及び日本銀行の政策連携を強化」すると表明。日銀は「物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%」とし、「金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す」とした。

達成できない物価上昇率2%目標

しかしその後の日本経済は2%目標を達成できない状態が続いた。黒田氏は就任早々の4月に「異次元の」金融緩和に踏み切ったものの、物価上昇率は消費税率引き上げの影響を除けば2%未満で推移。異次元緩和開始から9年近くたった2022年2月にウクライナ戦争が始まると、資源価格高騰などの影響で4月以降、物価は2%超の上昇をみせているが、異次元緩和の効果だとは言い難い。物価の安定的な上昇を実現し、賃上げや企業活動の活性化につながる好循環を生み出すには、経済の構造的な改革といった政府の役割が欠かせない。

異次元緩和の効果が不確かだとされる一方、日銀が長期間にわたって超低金利を維持してきたことは、さまざまな形で日本経済をゆがませたと批判される。超低金利の結果、政府は国債発行に伴う金利負担が抑えられるため、財政規律が失われたとの声は多い。また銀行などの低金利融資は、経営力の弱い企業の延命につながって経済の新陳代謝が失われ、同時に、低金利で融資する側の銀行は収益を上げにくくなり融資に消極的になったとの指摘もある。いずれも異次元緩和によって金利変動の自由度が極度に損なわれることで、経済に備わった調整機能が失われてしまったとの見方だ。

日銀の独立性の観点からの批判も

このためアコードを見直して、日銀が2%目標の達成にこだわらず、柔軟に金融政策を修正して、経済のゆがみを正すことができることを明確にすべきだとの声は以前からあった。また、そもそもアコードの存在自体が「金融政策の独立性を揺るがしている」との批判も多い。しかし、アコードを見直すことで市場に「日銀が金融緩和に急ブレーキをかける」との印象を与えれば、企業収益悪化などが連想されて株価に悪影響を与えかねないという不安もあり、かじ取りは難しい。

植田氏は指名報道後、「現在の日本銀行の政策は適切」と述べており、市場では「金融政策の急変はない」との見方が広がっている。ただしアコードの見直しには至らずとも、植田氏が日本経済のゆがみを意識していることは間違いなく、市場にとって植田氏の発言の重要度は増しそうだ。


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