S&P500に年初来高値の壁 成長改善でも頭打ち 10月物価焦点に
アメリカの7-9月期GDP改定値は軟着陸の可能性を感じさせた。次の焦点は30日発表の10月PCE物価指数だ。
アメリカの株式市場の上昇が正念場に達した。29日に発表された2023年7-9月期GDP改定値は成長率が上方修正される好結果。一方、四半期ベースの物価上昇率は速報値から下方修正され、景気の維持と物価上昇抑制を両立できる軟着陸(ソフト・ランディング)の可能性を感じさせた。金融市場では連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転じる時期が前倒しされるとの観測も強まっているようだ。ただ、29日のS&P500種株価指数はGDP改定値発表後に値を上げたものの、年初来高値を目前にして値下がりした。30日に発表される10月の個人消費支出(PCE)物価指数の結果が次の焦点になる。
アメリカの7-9月期の成長率は5.2%へ上方修正
米商務省が発表した7-9月期GDPは実質成長率が前期比年率5.2%となり、速報値の4.9%から上方修正された。設備投資や政府支出の伸びが速報値よりも大きくなったことが要因だ。一方、GDPの約3分の2を占める個人消費の伸び率は4.0%から3.6%へ下方修正された。それでも4-6月期の0.8%からは大きく伸びており、消費の堅調さを印象付ける数字だ。
一方、7-9月の物価上昇はさらなる落ち着きが示された。四半期ベースのPCE物価指数の伸び率は、総合指数で前期比年率2.8%で、速報値の2.9%から下方修正された。また食品とエネルギーを除いたコア指数の伸び率は2.3%となり、こちらも速報値(2.4%)から引き下げられている。FRBのジェローム・パウエル議長は2日の記者会見で、夏場の物価上昇減速を前向きに評価しており、今回の下方修正は物価上昇抑制を目指すFRBにさらなる安心材料を与えたとみられる。
FRBが2024年3月に利下げするとの観測も有力に
こうした中、金融市場ではFRBが利下げに転じるタイミングが前倒しされるとの見方が強まっているようだ。CMEグループのデータによると、2024年3月の連邦公開市場委員会(FOMC)後に政策金利が現状よりも低くなっていることについて、投資家の動向から算出される確率は日本時間30日午前11時すぎ時点で48.3%。前日午前の38%台から大きく上昇している。
実際、利上げに積極的と目されてきたFRB内のタカ派もトーンを変化させ始めた。クリーブランド連銀のロレッタ・メスター総裁は29日の講演で年内の追加利上げの必要性について言及せず、今後の経済指標を注視することの重要性を強調した。メスター氏は10月2日の講演では「年内にもう一度利上げを行う必要があるかもしれない」と述べていた。LSEGのデータによると、29日のニューヨーク債券市場では長期金利(10年物米国債利回り)の終値が4.271%まで下がり、9月13日(4.248%)以来の低さとなっている。
S&P500は年初来高値目前で失速
ただ、ソフト・ランディングの可能性の高まりや長期金利の低下は29日の株式市場の上昇にはつながらなかった。S&P500種(SPX)は29日のGDP改定値発表の前後に値を上げたものの、7月31日につけた終値ベースでの年初来高値(4588.96)まであと約1ポイントに迫ったところで下げに転じた。終値は前日比0.09%安の4550.58で、11月に入って8.5%も上昇してきた勢いが頭打ちになっている。
今後の株価を左右するFRBの金融政策の行方をめぐっては、日本時間の30日午後10時30分に発表される10月PCE物価指数の重要性が増している。結果次第でFRBが利下げに転じるタイミングをめぐる思惑が動く可能性もありそうだ。
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