アメリカ株式の分析レポート 第5回
アメリカ株式の分析レポート。第5回目のテーマは「株式市場の新しい焦点」です。2022年2月24、ロシア軍が突如ウクライナへ侵攻したことで、国際商品市場では原油と小麦の先物価格が高騰しました。今後の情勢次第では、「景気の後退リスク」が新たなメインテーマとして浮上する可能性があります。このため短期的に株価反発の局面が見られても、常に下落リスクを警戒する必要があります。詳細はマーケットレポートをご覧ください。
【サマリー】
・ロシアーウクライナ紛争と荒れる国際商品市場
・中長期で考えるべきリスク要因とは
・底堅いユーロ相場と投資家心理の変化
・レジスタンスポイントの突破に成功したS&P500指数
・S&P500指数 次の焦点は4,600ポイント
・中長期のスパンでは「景気の後退リスク」を警戒
ロシアーウクライナ紛争と荒れる国際商品市場
・ロシアーウクライナ紛争が勃発
2021年7月、ロシアのプーチン大統領は「ロシアとウクライナの一体性」に関する論文を発表しました。それ以降、ロシア軍は徐々にウクライナの国境付近に軍を終結させ、ウクライナ情勢が徐々に緊迫した状況となっていきました。
そして2022年2月24日、ロシア軍は突如ウクライナへの侵攻を開始しました。多くの市場関係者は、ロシア軍のウクライナ侵攻を想定していませんでした。それだけに、ロシアーウクライナ紛争の発生は大きな驚きをもって各市場で受け止められました。
・荒れる国際商品市場
なかでも国際商品市場は、ロシアーウクライナ紛争により大きく混乱しました。
この点について国際商品市場のトレンドを示すCRB指数(CRB Index)と原油先物価格のパフォーマンスで確認すると、ロシアーウクライナ紛争が発生した2月24日以降、原油先物価格が高騰していることがわかります。CRB指数も上昇していますが、原油先物価格のそれと比べると見劣りします。
CRB指数と原油先物価格のチャート
※WTI:ニューヨーク原油 / Brent:北海ブレント原油
原油先物価格が急騰した理由は、欧米を中心とした対ロシア制裁によって今年の4月以降、原油先物市場からロシア産原油の供給が減少することにあります。
現在、世界経済は2020年に発生したコロナショックを克服し、回復の途上にあります。その過程でエネルギー需要も拡大しています。また、昨今は環境問題が重視されていることから、従来の化石燃料からクリーンエネルギーへの転換が欧州諸国を中心に進められています。このため、大手の石油会社は化石燃料の生産を抑制しています。
各国の利害や企業の思惑が複雑に絡み合うなかで発生した今回のロシアーウクライナ紛争は、「エネルギーの需給がひっ迫する」という懸念を国際商品市場の参加者に意識させるのに十分過ぎるほどのインパクトを与えました。
急騰したのは原油先物価格だけではありません。シカゴ小麦の先物価格も急騰しました。
なぜか?それは、ロシアとウクライナが小麦の一大生産地だからです。米農務省によれば、21~22年度におけるロシアの小麦輸出量は世界最大の3,500万トン、ウクライナは2,400万トンと予想されています。両国の輸出量を合わせると、世界全体の約3割を占めます。
ウクライナでは、毎年8~9月ごろに小麦の作付けが行われます。そして収穫は、翌年の7~8月ごろに行われます。つまり、ロシアーウクライナ紛争が今年の夏まで続く場合、長期にわたり小麦の需給ひっ迫懸念が意識され続けることになります。よって、今の小麦の先物価格の急騰は、需給ひっ迫のリスクを先取りした動きと言えます。
CRB指数と小麦先物価格のチャート
※Wheat:シカゴ小麦の先物価格
中長期で考えるべきリスク要因とは?
・国際商品市場とインフレリスク
国際商品市場の状況は、今後のアメリカ株(米国株)のトレンドに大きな影響を与えると筆者は予想しています。なぜなら、原油や小麦の先物価格の高騰は人々の生活に大きな影響を与えるからです。
ロシアーウクライナ紛争と対ロシア制裁が長期化する場合、原油や小麦の供給が細り続けることで米国のインフレ率は高止まりする一因となる可能性があります。
直近の米国のインフレ率(2月の消費者物価指数)は、前年同月比で7.9%まで上昇しています。これは、約40年ぶりの高水準です。しかし、政策金利は未だに0.25~0.50%と低い水準にあります。また、賃金の伸び率は5.1%(前年同月比)と、こちらもインフレ率を大幅に下回っています。そして下のチャートを見ると、その格差は拡大の傾向にあります。この状況が続けば、米国経済のエンジン役である個人消費を縮小させる要因となるでしょう。
米国のインフレ率と賃金の上昇率
・米金融引き締めペースの加速と景気の後退のリスク
米国でインフレがさらに加速するか、もしくは高止まりする場合、パウエルFRBは金融引き締めのペースを加速させる可能性が出てきます。行き過ぎた金融引き締めも景気の拡大を阻む要因となり得ます。
上で述べた個人消費の動向も含め、実際に米国の経済が悪化するかどうかは、ロシアーウクライナ紛争の影響が表れる3月以降の経済指標データで確認する必要があります。「高インフレ→金融引き締めペースの加速→景気の後退」が具体的な数値で確認される場合、ロシアーウクライナ紛争がひとまず決着し、それにより米国株が上昇しても、米国株は再び下値をトライする展開になる可能性があります。
中長期のリスク要因として「景気の後退リスク」については、今年の4月以降のテーマとして常に意識してくべきでしょう。
【ポイント】
・中長期のリスク要因:景気の後退
短期的にはリスク選好による米株高を予想
・底堅いユーロ相場
国際商品市場の急騰は、高インフレが続く可能性を高めます。インフレの高止まりが続けば、パウエルFRBは金融引き締めのペースをさらに加速させることが予想されます。
よって、中長期で米国株のトレンドを考える場合は、景気の後退リスク(先行きリスク)が意識されるかどうか?この点が焦点となるでしょう。
しかし、短期的なスパンで考えるならば、米国株は反発のトレンド、もしくはレンジ相場へシフトすると筆者は予想しています。そう考える理由のひとつが、ユーロ相場の動きです。
3月16日、米連邦準備制度理事会(FRB)は連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25ポイントの利上げを決定し、FF金利の誘導目標を0.25~0.50%へ引き上げました。そしてパウエルFRB議長は、経済とインフレの情勢次第で政策の修正を機敏に行っていくことを表明しました。
タカ派色の濃いFOMCイベントとなりましたが、この週のユーロドル(EURUSD)はむしろ上昇しています。ロシアーウクライナ紛争は経済的にも地理的にもユーロ相場の下落要因です。しかし、そのユーロ相場が買い戻されている状況は、ロシアーウクライナ紛争に対する市場参加者の見方が変わっていることー ひとまず今回の紛争はエスカレートするリスクが後退するのでは?という見方が優勢になっていることを示唆しています。
そのきっかけとなったのが、停戦協議に関する報道が増えてきたことにあると筆者は考えています。実際にロシアとウクライナが停戦で合意するかどうかは不透明な状況です。しかし、3月の2週目から停戦協議に関するいくつかの報道が出てから、ユーロが買われる局面が見られるようになりました。
ユーロ相場のパフォーマンス:3月14日~17日
ユーロ相場のパフォーマンス:2月24日~3月11日
・レジスタンスポイントを突破してきたS&P500指数
また、米国株にもトレンドの変化が見られます。
機関投資家がベンチマークとするS&P500指数(SPX)は3月17日、レジスタンスポイントとして意識されていた4,400の突破に成功しました。3月の15日から連日で陽線が示現していること、その過程で20日線(MA、緑ライン)と短期レジスタンスラインを難なく突破した状況も考えるならば、投資家のリスクセンチメントはひとまず改善傾向にあることがわかります。
S&P500指数が200日線(MA、青ライン)をも上方ブレイクする場合は、次のレジスタンスポイント4,600を視野に反発基調を維持することが予想されます。
しかし、今のトレンドはあくまでも短期的な動きであることを意識しておくことが重要だと筆者は考えています。今後のロシアの動向次第では、再びウクライナ紛争のリスクが意識されるからです。
また、4月以降に発表される米国の経済指標(ロシアーウクライナ紛争の影響が反映される3月以降のデータ)で市場予想を下回る内容が相次いで確認される場合は、米国経済の先行きリスクが意識されるでしょう。
このような状況となれば、現在サポートのポイントとして意識されている4,100レベルのトライそして下方ブレイクを警戒しておくべきでしょう。
S&P500指数のチャート
今回のまとめ
・ロシアーウクライナ紛争は国際商品価格、特に原油と小麦の先物価格を高騰させる要因となった。これら商品の価格は、人々の生活に直接影響を与える。このためロシアーウクライナ紛争が長引けば、米国ではインフレリスクがさらに高まる可能性が出てくる。
・インフレリスクは、個人消費の縮小とパウエルFRBの行き過ぎた金融引き締めというリスクにつながる。またこれらのリスクは、米国の景気を後退させる要因となり得る。
・短期的に米国株は反発することが予想される。目先の焦点は4,600ポイントのトライとなろう。しかし、中長期のスパンでは「インフレと金融引き締めのリスク→景気の後退リスク」を意識しておきたい。実際にアメリカの景気が後退するかどうか?この点を考える上で、4月以降に発表される経済指標(ロシアーウクライナ紛争の影響が反映される3月以降の経済指標)の内容が重要なファクターとなろう。
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