【米国株 週間分析レポート】引き続き不安定な状況を警戒
11月10日に発表された10月米国消費者物価指数(CPI)は前年同月比で7.7%と、4か月連続で伸びが鈍化した。コア指数も同比6.3%と9月の6.6%から低下した。米CPIの結果を受け、米国の株式市場ではインフレリスクの懸念が後退している。この懸念の後退は米国株の上昇圧力を強めている。今後の米国株の展望は?そしてインフレリスクで次に注目すべき焦点とは何か?詳細は分析レポートをご覧ください。
【サマリー】
・10月の米国消費者物価指数(前年同月比)は4か月連続で伸びが鈍化した
・インフレ鈍化の期待で米国株には上昇の圧力が強まっている
・インフレリスクで次に注目すべきは「低下しないリスク」
・「中間選挙後は米株高」のアノマリーが発生する時期は?
インフレ鈍化の期待で米国株は上昇基調を維持
・米消費者物価指数は4か月連続で鈍化
今月10日に米国の労働省が発表した10月消費者物価指数(CPI)によれば、インフレ率は前年同月比で7.7%と9月の8.2%から鈍化した。今年6月に9.1%まで上昇した後、インフレ率(CPI)は4か月連続で伸びが鈍化している。
一方、コア指数も同比6.3%と9月の6.6%から低下した。
米国の消費者物価指数の推移
「インフレ率はピークアウトした。今後は低下していくだろう」-このような投資家の期待が高まり、11月10日の米国株は大幅高となった。
最も上昇したのはナスダック100指数(NDX)だった。前日比7.5%高となり、2020年3月以来の上げ幅となった。
一方、ダウ平均(DJI)は1,200ドル高。1,000ドルを超える上げ幅は2020年4月以来、およそ2年7か月ぶりである。そしてS&P50指数(SPX)は5.5%高となり、節目の4,000ポイントを視野に上昇基調を維持している。
米国市場のパフォーマンス:11月10日
・くすぶり続けるインフレリスク 次に注目すべきことは?
米国をはじめとした世界各国の経済はインフレのリスクに直面している。ゆえに主要国の中銀はインフレ抑制のために前例のない金融引き締めを行っている。
その中でも米国の連邦準備制度理事会(FRB)は4会合連続で75ベーシスポイント(bps)利上げを行い、主要中銀の中でもタカ派スタンスが際立っている。
FRBのタカ派スタンスを受け、今年の米国市場では米債利回りが急騰し、株価は下落トレンドを辿ってきた。ゆえに、10月米CPIで鈍化の傾向が確認されたことは「金利の急低下→米国株の急騰」を招いた。
注意しておきたいのは、インフレが鈍化の傾向にあるといっても、連邦準備制度理事会(FRB)が定める物価目標の2.0%からはるかに高い水準で推移している現実は変わっていない、ということである。
この物価目標に向かって順調に低下していくかどうかについて不透明である以上、インフレに関する次のリスク要因はー
「インフレがなかなか低下しないリスク」
にあろう。
ゆえに、今後のインフレ指標で根強いインフレ傾向が確認される場合、米国株は上下に振れる不安定な状況が続くだろう。
逆に、今後のインフレ指標で引き続き鈍化の傾向が確認される場合は、米国株のサポート要因となろう。
だが、後者の展開となっても、米国株が株高トレンドを鮮明にするのは来年となる可能性がある。なぜなら、今の米国株の状況はかつての相場と似ているからだ。
今の状況と似ているかつての相場とは?
・2015年~2016年10月の相場
その “かつての相場” とは、2015年から2016年10月にかけての米国株である。
下のチャートを見ればわかるとおり、2015年から2016年10月まで米国株はボックス圏での推移が続いた。この間、2014年後半に発生した原油安ショックが続いたり、2015年6月に中国株が急落したりと、景気の先行きリスクを意識させるイベントが続いた。
しかし、最も注視すべきは当時のイエレンFRBが金融政策の正常化を模索していたことだろう。
2015年12月、満を持してイエレンFRBは利上げに踏み切ることができた。その後、FRBは利上げを見送る状況が続いたが、金融政策の正常化を推し進めるスタンスは維持した。つまり、この時期は「株式市場を支援する政策がなかった期間」だったと言える。
あらためて下のチャートを見ると、2016年11月以降、突如株高トレンドが発生している。何があったのか?
それは、同年11月8日に行われたアメリカ合衆国大統領選挙でトランプ氏が当選したことである。
トランプ氏は大型減税を公約に掲げて大統領選に臨んだ。そして、大統領に就いてから公約通り大型減税を実行した。つまり、2016年11月以降は「株式市場を支援する政策が打ち出された期間」だったと言える。
S&P500指数のチャート
・2018年の相場
そして“かつての相場”は、もうひとつある。それが、2018年を通しての米国株の動きである。
2018年は、米中対立が鮮明となった年だった。当時は米中間の貿易摩擦に注目が集まったが、大勢でみるならば「覇権国のアメリカに挑む中国」という、現在の世界情勢を予感させる状況にあった。
世界第1位と2位の経済規模を誇る両国の対立は、景気の先行きリスクをあおった。このリスクは米国株の不安定な状況をあおった。
しかしここでも注目すべきは、連邦準備制度理事会(FRB)の政策スタンスである。2018年2月からイエレン氏から議長の座を引き継いだジェローム・パウエル氏は、金融政策の正常化をさらに推し進めていき、2018年12月までに政策金利(FFレート)は2.25-2.5%まで引き上げられた。
米国の政策金利の推移
しかし、米中対立による景気の先行きリスクが意識される中での連続利上げに、株式市場の投資家は危機感を覚えた。それが露見したが、2018年10月以降である。下の日足チャートをみると、この時を境に上昇トレンドにあった米国株は一転下落トレンドへ転じている。そしてその状況は2018年の年末近くまで続いた。
S&P500指数のチャート
・共通点は株価を支える政策の不在
かつての相場と今の相場で似ていること、それはー
「株式市場を支える政策がない」
ということである。
米国の金融政策は現在、引き締めサイクルにある。インフレの鈍化傾向を受け、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)での75ベーシスポイント(bps / 大幅利上げ)予想は急速に後退している。
また、短期金融市場が織り込む予想ターミナルレート(利上げの最終地点)も5%台の水準から低下している(2022年11月14日時点)。
しかし、これらの予想は今後のインフレ関連の経済指標や他の重要経済指標の内容で修正されるだろう。よって、パウエルFRBは4か月ほど続いたインフレの鈍化程度で、すぐに金融引き締め政策の手綱を緩めることは考えにくい。ゆえに「株式市場を支える政策がない期間」はもうしばらく続くと考えておいた方が良いだろう。
そしてこの期間が続くということは、現在のように株価が上昇しても、突然下落トレンド転じる不安定な状況が米国の株式市場で続く要因となろう。
米国の政策金利 予想推移
「中間選挙後は株高」のアノマリー
しかし、「中間選挙後に米国株は上昇する」というアノマリーがある。このアノマリーは再現性が非常に高いことで知られる。事実、今年も中間選挙前後からこのアノマリーを想起させる状況にある。
だが、前回の記事や今回の記事で述べたとおり、今年の米国株は下落リスクを意識する状況が続くと筆者は予想している。その理由は、上で述べた「株式市場を支える政策の不在」にある。
では、「中間選挙後は株高」のアノマリーがいつ発生するのか?次のレポートではこの点について考えてみたい。
結論
10月の米国消費者物価指数(前年同月比CPI)は4か月連続で伸びが鈍化した。
インフレの鈍化傾向を受け、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペースの減速期待が高まり、米債市場では利回りに低下の圧力が高まっている。これらの動きを受け、米国株は上昇基調にある。
しかし、インフレリスクが完全に後退したわけではない。今後は「インフレがなかなか低下しないリスク」を考える必要がある。ゆえに、パウエルFRBはそうやすやすと金融引き締め政策の手綱を緩めることは無いだろう。
今年の米国株は上昇と下落が交錯する不安定な状況が続くことが予想される。
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