アメリカ株、スタグフレーション懸念で視界不良、PCEデフレーターの上振れ警戒、S&500の見通し
スタグフレーション懸念が米国株の新たなテーマに浮上しつつある。1月のPCEデフレーターが上振れする場合は、米株安を警戒したい。3月相場の警戒感も高まろう。
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記事の概要
景気の減速とインフレが同時に進行する「スタグフレーション」が、米国株の新たな懸念材料となる可能性がある。今週28日に、1月の個人消費支出価格指数(PCEデフレーター)が発表される。米国経済を支える個人消費の不透明感が高まるなかで上振れる場合は、米株安の要因になり得る。3月相場の警戒感も高まるだろう。多くの機関投資家が運用指標にするS&P500は今週、下値のトライを警戒したい。週間の予想レンジは5,900~6,200ポイント。
急速に後退する米株高のムード
先週(17日~21日)の米国株は、週の後半を境にして株高のトレンドが急速に失速した。特に21日の市場では主要な株価指数が急落した。この急落を受け、ナスダック100以外の株価指数の月初来騰落率がマイナスへ転じた。
急落の主因は、「スタグフレーション」の懸念を高めた経済指標にあった。
米国株価指数の動向:月初来
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ブルームバーグのデータで筆者が作成
スタグフレーションが市場の新たな懸念材料に
アメリカ株式市場では、景気の減速とインフレが同時に進行する「スタグフレーション」が、新たなテーマに浮上する可能性が出てきた。今週、この懸念が主要なテーマとなれば米株安を警戒したい。
米国経済の土台は個人消費である。その個人消費の重要な指標が小売売上である。1月は前月比で0.9%減の7,239億ドルと、昨年1月(0.7%減)以来1年ぶりの大幅減となり個人消費の縮小を示した。
企業決算でも個人消費の先行き不透明感が示された。米小売り大手のウォルマートは先週20日、2024年11月~25年1月期(第4四半期)決算を発表した。1株利益と売上高はアナリスト予想を上回った。しかし、投資家が重視する2026年1月期通期の見通しで調整後の1株利益が2.50~2.60ドルと、ブルームバーグがまとめたアナリスト予想2.67ドルを下回った。
個人消費の先行き不透明感を高める材料が続いた状況で、21日に2月のミシガン大学消費者態度指数と期待インフレ率の確報値が発表された。消費者のマインドを示す消費者態度指数は速報値の68.7から65.7へ下方修正された。先行景況感も速報値の67.3から64.0へ下方修正された。
一方、米FRBが重視する5-10年先の期待インフレ率は3.5%と速報値の3.3%から上方修正され、1995年4月以来の水準となった。
米国経済を支える個人消費の先行き不透明感が高まる一方で、消費者のインフレ期待が同時に上昇している状況は、市場参加者にスタグフレーションの懸念を意識させた。
ミシガン大学調査 消費者態度指数と期待インフレ率:24年2月~25年2月
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ブルームバーグのデータで筆者が作成
企業活動でも不透明感が高まっている。米S&Pグローバルが21日に発表した2月の購買担当者景気指数(PMI)速報値では、総合指数が50.4と、1月の52.7から急速に低下した。2023年9月以来の低水準となった。要因はサービス業の低迷だった。2月は49.7と1月の52.9から急低下し、景気判断の分かれ目である50を下回った。
トランプ関税がもたらす不確実性が企業の間でも高まっている可能性が示された。
米国 購買担当者景気指数(PMI):24年2月~25年2月
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ブルームバーグのデータで筆者が作成
PCEデフレーターの上振れを警戒、3月相場の警戒感を高める要因に
トランプ米大統領は、関税の強化策を矢継ぎ早に表明している。
トランプ氏は21日、4月2日に自動車関税を25%にするとあらためて表明した。また、米国の巨大テック企業に課すデジタルサービス税(DST)を導入している国からの輸入品に報復関税を課すための調査をするよう、通商代表部(USTR)に指示した。
トランプ関税によるインフレ再燃の懸念が意識されるなか、今週28日に1月の個人消費支出価格指数(以下ではPCEデフレーター)が発表される。ブルームバーグがまとめた市場予想では、トレンドを示す前年同月比が昨年12月から鈍化する見込みにある(下のラインチャートを参照)。ゆえにリスク要因は、予想外に上振れることにある。
個人消費の先行き不透明感が意識されるなか、米連邦準備制度理事会(FRB)が物価指数として重視するPCEデフレーターがインフレの粘着性を示唆する内容となれば、スタグフレーション懸念を高める要因になり得る。この懸念が高まれば、米株高を調整する売りの圧力が高まることが予想される。また、3月相場の警戒感を高める要因にもなろう。
米国のPCEデフレーター:2024年1月~12月
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ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 赤の棒グラフとドット:1月の市場予想
S&P500 今週の見通しとテクニカルライン
資金はリスク資産から安全資産へ
スタグフレーションの懸念は、安全資産の投資需要を高めるだろう。安全資産の代表格である金価格は最高値圏での攻防を維持している。
一方、米債市場では利回りが再び低下基調へ転じている(米国債を買い戻す動きが見られる)。ブルームバーグ・インテリジェンスによれば、今月に入り主要な米国債ETFへの資金流入が続いている。一方、S&P500に連動するSPYやナスダック100に連動するQQQといった主要な米国株ETFへの資金流入は、昨年12月の中旬以降、抑制の傾向にある。
この状況でスタグフレーションがアメリカ株式市場の新たなテーマとして浮上すれば、リスク資産である米国株を売って安全資産の米国債やゴールドを買う動きが強まる展開を想定したい。
米国債と株式ETFの資金フロー:週次 24年11月~25年2月14日まで
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ブルームバーグインテリジェンスのデータで筆者が作成
今週のサポートライン、予想レンジの下限は5,900
スタグフレーションが意識され、今週の米国株が下値をトライする場合、S&P500は3つの移動平均線の攻防に注目したい。週間の予想レンジ下限は5,900ポイント。
・21日の急落を止めたのが50日線だった。週明けの米国株が下値をトライする場合、まずはこの移動平均線の攻防に注目したい。すぐ下の6,004ポイントは、フィボナッチ・リトレースメント38.2%の水準にあたる。これらテクニカルラインのトライは、6,000ポイントの維持を見極める攻防となろう
・S&P500が節目の6,000ポイントを難なく下方ブレイクする場合は、75日線のトライを想定したい。この移動平均線をも下方ブレイクする場合は、半値戻しの水準5,960ポイントを視野に下落幅が拡大する展開を想定したい
・半値戻しの下方ブレイクは、100日線をトライするサインと考えたい。この移動平均線をも下方ブレイクする場合は、今週の予想レンジ下限5,900ポイントのトライが視野に入ろう。フィボナッチ・リトレースメント61.8%戻しの水準5,916ポイントの下方ブレイクは、5,900ポイントをトライするサインと考えたい
サポートライン
・6,009:50日線(2/21時点、日足)
・5,992:75日線(2/21時点、日足)
・5,960:半値戻し(日足)
・5,941:100日線(2/21時点、日足)
・5,916:フィボナッチ・リトレースメント61.8%(日足)
・5,900:週間予想レンジの下限(日足)
今週のレジスタンスライン、予想レンジの上限は6,200
一方、S&P500が50日線や75日線で底堅さを維持する場合は、20ポイントのレンジで上値の攻防を見極める展開となろう。週間の予想レンジ上限は6,200ポイント。
・PCEデフレーターをはじめとした今週の米経済指標でスタグフレーション懸念が後退する場合は、S&P500の反発が予想される。だが、トランプ関税の不確実性が意識され安全資産の投資需要が高まっている状況を考えるならば、上昇幅は限定的となる可能性があろう
・今週の予想レンジ上限は6,200ポイント。この水準をトライするサインとして、以下にまとめた20ポイントレンジのサポートラインの攻防に注目したい。最初の6,080レベル付近には10日線(21日時点で6,084レベル)が推移している。10日線を突破すれば、6,100ポイント台の攻防を意識したい
・20日の取引時間に付けた最高値6,147ポイントの突破は、6,200ポイントをトライするサインと考えたい
レジスタンスライン
・6,200:週間の予想レンジ上限
・6,147:2月20日の高値(45分足)
・6,120:レジスタンスライン(45分足)
・6,100:レジスタンスライン(45分足)
・6,080:レジスタンスライン(45分足)
S&P500のチャート
日足:年初来
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出所:TradingView
45分足:2月以降
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出所:TradingView
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