【米国株 ウィークリーレポート】 米国株はグロース株復権のムード / ナスダック100指数の展望について
5月2-3日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ停止の可能性が意識されて以降、米国の株式市場ではバリューからグロースへの流れが鮮明になりつつある。このトレンドの土台となっている要因は何か?今週もこのトレンドが続く場合、ハイテク株比率の高いナスダック100指数(NDX)はどのような展開が予想されるのか?詳細はウィークリーレポートをご覧ください。
サマリー
・米国の株式市場はバリューからグロースへの資金シフトが進行している
・グロース株復権の要因はインフレリスクの後退と市場が抱く利下げ期待にある
・米債市場は経済指標にらみの展開が続く、今週の注目指標は16日の4月小売売上
・強気相場入りのナスダック100指数は昨年8月高値のトライが焦点に
バリューからグロースへ
5月2-3日に連邦公開市場委員会(FOMC)が開催された。公表された声明文では、3月に盛り込まれた「some additional policy firming may be appropriate(追加の利上げが適切)」との文言が削除された。これを受け、株式市場では利上げサイクルの終了を意識する状況にある。
5月3日を基準日とした各株価指数のパフォーマンスの推移を確認すると、ナスダック指数(緑ライン)の上昇幅が拡大していることが分かる。対照的にダウ平均(DJI, 赤ライン)は、マイナス圏へ下落している。
ハイテク株比率の高いナスダック指数は、グロース株のトレンドを表す株価指数である。一方、成熟企業を中心に構成されるダウ平均はバリュー株のトレンドを表す株価指数である。両社のパフォーマンス格差が拡大傾向にあるということは現在、米国の株式市場では、バリューからグロースへ資金のシフトが進行していることを示唆している。
この流れを促している要因は、以下で述べるインフレリスクの後退と市場が抱く早期の利下げ期待にある。
アメリカ株価指数のパフォーマンス
米国のインフレは鈍化の傾向を維持
先週10日の4月消費者物価指数(CPI)は前年比で4.9%と、前月の5.0%から低下した。変動の大きい食料品とエネルギーを除いたコアCPIも前月の5.6%から5.5%へ低下した。
また、同月の生産者物価指数(PPI)も前年比で2.7%から2.3%へ、コアPPIは3.4%から3.2%へそれぞれ低下した。PPIの方は、昨年4月(下チャート青の縦ライン)以降、インフレの低下基調が鮮明となっている。
4月の物価指標は、いずれもアメリカのインフレが鈍化の傾向にあることを示す内容となった。
アメリカのインフレ動向
根強い年内の利下げ観測
アメリカのインフレが鈍化の傾向にあることを受け、短期金融市場(OIS市場)では連邦準備制度理事会(FRB)が年内に利下げ政策へ転じる可能性を織り込む状況が続いている。直近の織り込み度合いを確認すると、早ければ9月の連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが利下げに踏み切る可能性を意識する状況にある。
アメリカのFF政策金利に関する市場の思惑
米国株 3つのリスク要因について
くすぶるインフレのリスク
5月のFOMC以降、米債市場は雇用や物価の経済指標の内容に対して素直に反応している。上で述べたとおり4月の物価指標はいずれもインフレ鈍化の傾向を示した。これが意識され米債市場では利回りが低下し、米国株の下支え要因となった。
しかし、先週12日のミシガン大学期待インフレ率で米金利の低下ムードが再び後退しつつある。5-10年先(長期)の期待インフレ率が3.2%と、2011年3月以来の高水準まで上昇したためだ。
物価指標では確かにインフレの鈍化を示唆する内容が続いている。しかし、将来のインフレは人々が抱く予想に大きく左右される。ゆえに期待インフレ率が予想以上となった状況は、株式市場の参加者が楽観視できるほどインフレのリスクが順調に後退しない可能性を示唆している。
今後発表される物価指標で「インフレが低下しないリスク」を意識させる内容が続く場合は、利下げ期待が先行する状況にある米国株が再び不安定になる要因となろう。
ミシガン大学 期待インフレ率の推移
景気の先行きリスク
今週の米債市場も経済指標にらみの展開が予想される。現在のアメリカ経済の焦点は景気の先行きにある。この点が意識されている状況を考えるならば、アメリカ経済のエンジン役である個人消費関連の経済指標も米金利の変動要因となろう。
今週16日(火)に4月の小売売上高が発表される。堅調な個人消費が確認される場合は米金利の上昇要因となり得る。同時に強い小売り売上高は景気懸念の後退要因でもある。ゆえに、小売売上高が予想以上の内容となる場合は米国株の上昇要因、特に景気敏感株の上昇要因と想定しておきたい。
一方、小売売上が予想外に落ち込む場合は、景気の減速リスクが意識され米金利の低下要因となろう。このケースでは米国株の下落が予想される。
しかし、米金利の低下はグロース株の下支え要因である。また、さえない経済指標は利下げの観測を高める要因でもある。ゆえに、さえないアメリカの経済指標(小売売上高)はダウ平均(DJI)の下落要因となる一方、ナスダック指数をサポートする要因になり得る。
なお、直近2か月の小売売上は前月比でマイナスが続いているが、4月は同比0.8%増、自動車を除くコア指数は同比0.4%増と、ともにプラスに回復する見通しとなっている。
小売売上高以外では、15日の5月ニューヨーク連銀製造業景気指数や18日の同月フィラデルフィア連銀製造業景気指数などの景気先行指標も米国株の変動要因となる可能性があろう。
アメリカ小売売上の推移
債務上限問題のリスク
米国株のリスクイベントとして今後2週間の間で最も注視しておきたいのが、連邦政府の債務上限を巡るアメリカ政治の動きである。
債務不履行(デフォルト)の可能性が指摘されている6月1日が迫るなか、12日の再協議が延期となり民主党と共和党の溝は一向に埋まる気配がない(16日に協議が再開される見通し)。
現状、筆者は6月1日までに両党がこの問題についての政治的な妥協点を見出すことでデフォルトを回避すると予想している。しかし、両党は党内の各支持層を意識せざるを得ずギリギリまで協議を行うことが予想される。ゆえに今週、協議に関する悲観的なヘッドラインが多く流れる場合は、一時的にせよ米国株の下落(調整の反落相場)を警戒しておきたい。
特に、上で取り上げた米経済指標が総じてさえない内容となり、かつ債務上限問題に関する悲観的なヘッドラインが流れる場合は、全体的に相場の地合いが悪くなる可能性が高まる。このケースでは、強気相場入りしているナスダック指数を含め米国株全体で下落幅が拡大する展開を警戒しておきたい。
なお、CDS(クレジットデフォルトスワップ)の保証料率の推移を見ると、1年と5年のそれらの上昇幅が拡大傾向にある。
CDSの推移
ナスダック100指数の展望とチャートポイント
上昇局面では昨年8月高値のトライが焦点に
ナスダック100指数(NDX)の日足チャートを確認すると、12,880-13,200レベルのボックス圏を上方ブレイクした後、ボックス上限の13,200レベルがレジスタンスからサポートへ転換していることが分かる。
冒頭部分に掲載したパフォーマンスチャートでダウ平均(DJI)とのパフォーマンス格差が拡大している状況(=資金がグロース株へシフトしている状況)や米金利の上昇幅が限られていることも考えるならば、今週のナスダック100指数は昨年の8月高値13,720レベルを視野に上昇幅の拡大が予想される。
ナスダック100指数が13,400ポイント台へ上昇した後にこの水準を維持する展開となれば、昨年8月の高値13,720レベルを視野に上昇幅が拡大するシグナルと想定しておきたい。
ナスダック100指数のチャート
反落局面での注目ポイント
ナスダック100指数(NDX)の地合いは強い。この点は、MACDでゴールデンクロスが示現していることでもうかがえる。
しかしナスダック100指数は短期間で上昇幅が拡大している。ゆえに今週は、上で述べたリスク要因(景気の先行きリスクと債務上限問題の不透明感)が調整の売り材料として使われる可能性がある。
騰落株線(Advance Declineライン)が横ばい推移となっていることも、上昇トレンドの息切れ感を示唆している。
ナスダック100指数の騰落株線
ナスダック100指数が反落する場合、まずはサポートとしての13,200レベルの底堅さを確認することが重要となろう。反落の局面でこの水準での “サポート転換”が何度も確認される場合は、地合いの強さを市場参加者に印象付けるだろう。
一方、ナスダック100指数が日足ローソク足の実体ベースで13,200レベルを下方ブレイクする場合は、20日MA(13,117レベル)の攻防が焦点となろう。この移動平均線をも下方ブレイクする場合は、短期的に節目の13,000レベルとボックス圏の下限12,800レベルの維持が焦点として浮上しよう。
ナスダック100指数のチャート
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