【IG米国株レポート】ジャクソンホールでのパウエル講演、8月PMIそして中国の不動産リスク
先週、主要なアメリカの株価指数は2%超下落した。投資家の心理が冷え込むなか、今週25日にパウエルFRB議長が経済シンポジウム(通称:ジャクソンホール会議)で講演を行う。パウエル氏の発言内容は、米長期金利と米国株を大きく動かすことが予想される。また今週は8月PMI、そして中国の不動産リスクに関する新たな報道や中国当局の対応も米国株の変動要因となる可能性がある。それぞれの焦点は?詳細はIG米国株レポートをご覧ください。
※今週のナスダック100の見通しとチャートポイントについてはこちらをご覧ください
サマリー
・先週のアメリカ株価指数は2%超下落し、投資家心理の冷え込みを示唆した
・今週の米国株も米金利、特に長期ゾーンの利回り動向をにらんだ展開が予想される
・ジャクソンホール会議でのパウエル講演が米金利と米国株を大きく動かす可能性がある
・8月PMIそして中国の不動産リスクに関する新たな情報も米国株の変動要因となろう
急速に冷え込む投資家の心理
先週、アメリカの主要な株価指数はいずれも2%超下落した。
小型株の代表的な指数であり、市場の変調をいち早く察知すると言われているラッセル2000は3.4%下落し、投資家の心理が急速に冷え込んでいることを示唆した。
アメリカ株価指数の週間騰落率:8月14日~18日
長期ゾーン利回りの動向
米株安が進行している要因の一つが、米債市場で利回りの上昇幅が拡大していることにあると筆者は考えている。ゆえに今週の米国株は、引き続き米金利の動向でトレンドが左右されることが予想される。
現在の米金利の上昇要因は3つある。
【米金利の上昇要因】
①金融引き締めが長期化しても予想外に底堅さを維持するアメリカの景気
②連邦準備制度理事会(FRB)のメンバーが抱くインフレリスク対する警戒レベルの高さ
③米国債の需給に対する市場参加者の警戒心
金融政策の方向性を織り込んで動く2年債利回りは確かに上昇している。しかし、今年の3月以降、節目の5%で上昇が止められる状況が続いている。この動きは、追加利上げの可能性を意識しながらも、パウエルFRBの利上げサイクルが終了する可能性の方が高いことを意識している動きと考えることができる。
アメリカ2年債利回りのチャート:日足 年初来
一方、10年債利回りは先週17日、昨年10月21日以来となる4.3256%まで上昇する局面が見られた。
そしてより期間の長い30年債利回りに至っては4.4239%と、昨年10月に付けた4.4214%を超え、2011年6月以来の高水準まで上昇する局面が見られた。
この動きは、短期債と比較してリスクの高い長期債の安定的な需要に対する市場参加者の不安心理を示していると考えられる。
これら利回りの上昇幅が拡大し、米国株が下落トレンドへ転じている状況は、長期ゾーンの利回りが、現在の米国株のトレンドに影響を与えていることを示唆している。
今週23日にアメリカ財務省は、20年債入札(160億ドル)を実施する。この(長期債の)入札で安定的な需要が見られる場合、10年債利回りや30年債利回りの低下要因になり得る。長期ゾーン利回りの低下は、米国株のサポート要因となることが予想される。
一方、20年債の入札が不調に終わる場合は、長期ゾーンの利回りに上昇の圧力が高まることが予想される。このケースでは、米株安を警戒しておきたい。
アメリカ30年債の利回りチャート:週足 2011年以降
ジャクソンホール会議でのパウエル講演
今週24日-26日に、カンザスシティー地区連銀がワイオミング州ジャクソンホールで毎夏恒例の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)を開催する。
25日午前10時05分(日本時間午後11時05分)に連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が、経済見通しについて講演する予定となっている。
現在のところアメリカ経済は、堅調な個人消費に支えられ底堅さを保っている。労働市場では低い失業率と根強い賃金インフレの状況が続いている。ゆえにパウエルFRB議長はインフレのリスクが再燃する可能性を警戒している。
ジャクソンホール会議でパウエルFRB議長があらためてインフレ圧力の根強さについてふれ、追加の利上げや政策金利を長期にわたり高い水準で維持する可能性について言及する場合、米債市場では利回りの上昇が予想される。
米金利の上昇、特に長期ゾーンの利回りがさらに上昇する場合は、米株安の進行を警戒したい。
アメリカの経済指標
購買担当者景気指数(PMI)速報値
パウエルFRBの利上げ政策が長期化しているにもかかわらず、アメリカの景気は底堅さを維持している。
しかし現在は、米金利の上昇だけでなく、中国の不動産リスクとそれに伴う同国経済の先行き懸念が、米株安の一因となっている。
景気の先行き不透明感が意識されている状況で、今週23日に8月の購買担当者景気指数 (PMI) 速報値が発表される。各予想値は、以下となっている(下のラインチャートを参照)。
直近1年間の推移を確認すると、回復基調にあったサービス業が低下基調へ転じている。それに連動し総合指数も2か月連続で低下している。一方、製造業は7月に改善したが、景気判断の分かれ目である「50」を下回る状況にある。
中国の景気不安が意識されているタイミングで、8月PMI速報値が総じて予想以下となれば、アメリカ経済の先行きリスクが意識され、米国株は下落することが予想される。
アメリカ購買担当者景気指数(PMI)の推移:過去1年間
さえない経済指標は株安の要因に
さえない経済指標は、「金融引き締め懸念の後退→米株高」の要因となる可能性がある。
しかし、金融政策の方向性についてヒントを探るため、多くの市場参加者の関心は経済指標よりもパウエル講演に向いている。
また、中国の景気不安が世界経済に及ぼす悪影響を警戒する状況にあることも考えるならば、アメリカの景気指標がさえない内容となる場合は、素直に米株安の要因として警戒しておきたい。
強い経済指標での焦点は?
一方、8月PMI速報値がアメリカ経済の底堅さ示す場合は、景気の先行き懸念が後退することで、米株高の要因になり得ると筆者考えている。
しかし、景気の底堅さは米長期金利の上昇要因でもある。ゆえに、強い経済指標が確認される場合は、筆者の予想が正しいのか?それとも株安で反応するのか?これらの点を確認することが、今後の経済指標と米国株の関係性を考える上で重要な焦点となろう。
中国の不動産リスクと景気不安
上で述べたとおり、現在の米国株は長期ゾーン利回りの上昇だけでなく、中国の不動産リスクとそれに伴う景気不安も意識する状況にある。
先週17日、中国の不動産最大手である中国恒大集団が米国ニューヨークで連邦破産法15条の適用を申請した。
そして同業の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)は、私募債の償還を3年間延長する案を債権者に提案するとの報道がある。同社は、22年末時点で1兆4348億元と、中国恒大集団に次ぐ規模の債務を抱えるという報道もある。
中国人民銀行(中央銀行)は21日、事実上の政策金利とする最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)の1年物を年3.45%に引き下げた(従来は年3.55%)。不動産市場の低迷などで中国の景気回復は鈍い。今回の追加利下げは、企業向け融資や不動産市場への資金供給を増やし、景気を下支えする狙いがあると見られる。
しかし、住宅ローン金利に影響を与える5年物LPRは4.2%で据え置いた。日本時間12時過ぎの時点で、主要な中国の株価指数はマイナス圏で推移している。今後も中国当局の出方が注目されるが、現時点では利下げのみで中国の景気を下支えするには不十分であると市場参加者は考えているようだ。
中国株の下落相場が続く場合は、米国株がさらに下値をトライする要因になり得る。
中国のローンプライムレートの推移
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