ゴールド(金)連日で最高値を更新 貿易戦争と地政学リスクが下支え 金価格の見通し
貿易戦争による世界経済の先行き懸念が強まっている。欧州と中東では地政学リスクが高まっている。これらリスク要因が意識されNY金は強気相場にある。3,060ドルを突破すれば、3,100ドルが視野に入ろう。金価格の見通し。

記事の概要
国際商品市況でNY金の上昇幅が拡大している。先物価格(4月物)は7日続伸し、連日で最高値を更新した。スポット価格(金価格)は2月下旬の調整売りをこなし3週連騰のムードにある。トランプ関税に端を発した貿易戦争とそれにともなう経済の減速懸念、そして欧州と中東の地政学リスクが金価格の強気相場を支えている。今日以降、金価格が3,060ドルのテクニカルラインを突破すれば、3,100ドルを視野に上昇幅の拡大を想定したい。金価格の見通しについて。
NY金、連日で最高値を更新、強気相場の勢い増す
NY金が強気相場を維持している。19日の市場で先物価格(4月物)は前日比0.4ドル高の1トロイオンス=3,041.2ドルと7日続伸。一時3,052.4ドルと中心限月としての最高値を更新した。
スポット価格は4日続伸し、連日で最高値を更新した。2月の最終週に調整売りで2.6%下落して以降、3週連騰で終えるムードが高まっている。また今週の上昇率は、現時点での25年平均の上昇率1.64%を上回っている。金価格は強気相場を維持しているだけでなく、その勢いも増している。
スポット金価格の動向:週間の変動率

ブルームバーグのデータで筆者が作成
トランプ政権発足以降強気に傾く市場、貿易戦争と地政学リスクを意識
市場参加者の見通しを先物価格のカーブ分析で確認すると、トランプ氏がアメリカの第47代大統領に就任して以降、強気に傾いていることが分かる。
市場の見通し

ブルームバーグのデータで筆者が作成
2つの要因が市場の強気見通しを支えている。ひとつは、貿易戦争による経済の減速懸念である。トランプ米大統領は就任直後から関税政策の強化に乗り出している。相手国も報復関税で対抗し、貿易戦争が激化している。
経済協力開発機構(OECD)が17日に公表した最新の経済見通しでは、2025年の世界の成長率予想が3.1%、来年が3.0%と前回予想からそれぞれ引き下げられた。トランプ関税に端を発する貿易戦争が企業の活動と個人消費を抑制することを想定した下方修正となった。アメリカ、日本そしてユーロ圏の成長率もそれぞれ下方に修正された。
OECDの経済見通し

出所:経済協力開発機構(OECD)/カッコは昨年12月見通しからの修正幅
強気見通しを支えるもう一つの要因は、地政学リスクである。
欧州ではウクライナ・ロシア戦争の停戦を巡り、アメリカのトランプ大統領とロシアのプーチン大統領が18日、電話会談を行った。ウクライナのエネルギー施設やインフラに対する攻撃を30日間停止することで合意した。しかしプーチン大統領は、アメリカが求めた全面停戦を拒否した。ウクライナ情勢を巡ってはアメリカと欧州の溝も深まっており、先行きはなお不透明である。
中東の地政学リスクも再び高まっている。イスラエルは18日、パレスチナのガザ地区に大規模な空爆を行った。19日には地上作戦を再開した。イスラエルのネタニヤフ首相は18日夜のビデオ声明で、攻撃を再開した責任はアメリカの停戦案を拒んだハマスにあると主張した。ハマスはイスラエルの攻撃を非難し、停戦の合意は破綻の危機に直面している。
貿易戦争による経済の減速懸念と地政学リスクがそう簡単に後退することはなく、ゆえに中長期のスパンで金価格を下支えするだろう。
金価格の見通しと注目のテクニカルライン
FOMC、経済見通しを下方修正
米連邦準備理事会(FRB)は19日の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利の据え置きを決定した。
追加利下げの見送りはすでに織り込まれていたため、今回の焦点はFOMC参加者の見通しにあった。2025年の経済成長(実質GDP)の見通しは1.7%と、前回予想(昨年12月)の2.1%から大幅に下方修正した。一方、PCEのコアインフレ率は2.5%から2.8%へ上方修正した。政策金利(FFレート)の見通しは3.9%で、年内の利下げ回数は2回で維持された。
注目は経済成長が下方修正されたことである。声明文では「Uncertainty around the economic outlook has increased(経済見通しを巡り不確実性が高まっている)」との文言が記載された。パウエルFRB議長は定例会見で労働市場と経済の底堅さについて言及した。しかし、トランプ関税が経済に及ぼす影響についてはまだ不透明であり、この点を見極める必要性にも言及した。今後発表される経済指標で米国経済の減速を示す内容が続けば、6月以降のFOMCで政策金利の見通しも下方修正されることが予想される。
なおFOMC後、短期金融市場では今年末の政策金利(FFレート)の予想水準が3.5%台まで低下している。FOMC前は3.6%後半で推移していた。市場では、今年3回の利下げを織り込む状況に転じている。経済見通しの下方修正と短期金融市場の利下げ期待の高まりは、金価格の押し上げ要因となった。
FOMC 政策金利の予想推移

3,060ドル突破なら3,100ドルが視野に
スポット金(以下では金価格)は、18日のIGコモディティレポートで週間予想レンジの上限として取り上げたフィボナッチ・エクステンション61.8%の水準3,062ドルを視野に上昇幅が拡大している。日足の一目均衡表では強気相場を暗示する三役好転の状況にある。MACDはゴールデンクロスへ転じた後、上昇幅が拡大している。
上で述べた貿易戦争による世界経済の減速懸念、欧州と中東の地政学リスク、そしてFOMC参加者による経済見通しの下方修正を考えるならば3,062ドルの突破、そして3,100ドルを視野に金価格の上昇幅拡大を想定したい。3,100ドルをトライするサインとして、以下にまとめた10ドルのレンジで調整の反落ポイントを確認したい。
レジスタンスライン
・3,100:レジスタンスライン(日足)
・3,090:レジスタンスポイント
・3,080:レジスタンスポイント
・3,070:レジスタンスポイント
・3,062:フィボナッチ・エクステンション61.8%(日足)
3,000ドルの維持が焦点に、反落の局面では押し目買い狙い
18日のIGコモディティレポートでは、金価格の週間予想レンジの上限を2,940ドルとした。しかし、3,000ドル台へ上昇した後も連日で最高値を更新する状況を受け、下限の水準を3,000ドルに引き上げる。
15分足のストキャスティクスとRSIは、買われ過ぎの水準でデッドクロスへ転じ低下基調へ転じている。短期間で上昇幅が拡大したことも考えるならば、今日の米新規失業保険申請件数で労働市場の底堅さが示される場合は、米金利の反発による金価格の下落を想定したい。また、明日は週末前の調整売りに直面する可能性もある。だが、上で述べた金価格を取り巻く状況を考えるならば、反落の局面では以下にまとめたフィボナッチ・リトレースメントの水準、10ドルのレンジで押し目買いを狙いたい。
サポートライン
・3,046:23.6%戻し(15分足)
・3,039:半値戻し(15分足)
・3,030:76.45戻し(15分足)
・3,022:全戻し(15分足)
・3,000:予想レンジの下限(日足)
金価格のチャート
日足:24年12月以降

出所:TradingView
15分足:3月19日以降

出所:TradingView
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