米国株は下落一服も根強い景気懸念、焦点は8月CPIと雇用関連指標、正念場のS&P500
景気懸念で原油先物価格の下落幅が拡大している。同じリスク資産の米国株は、連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待で何とか持ちこたえているが、今後発表される経済指標の内容次第では、景気リスクが相場の重しとなろう。正念場のS&P500。注目のチャート水準は?
記事のポイント
・景気懸念が意識され原油先物価格の下落幅が拡大している
・経済指標にらみの米株、CPIよりも雇用関連指標がより重要に
・正念場のS&P500、上昇局面では3つの移動平均線の攻防に注目
・一方、下落の局面では5,300ポイントの維持が焦点となろう
S&P500 注目のチャート水準
上値の水準(レジスタンス)
・5,541:21日線(9/10時点)
・5,538:10日線(9/10時点)
・5,505:50日線(9/10時点)
下値の水準(サポート)
・5,402:9月6日安値
・5,380:半値戻し
・5,320:61.8%戻し
景気懸念で原油先物価格が下落
石油輸出国機構(OPEC)は10日に公表した月報で、24年の世界の石油需要見通しを前年比日量203万バレル増と、8月予想の日量211万バレルから下方修正した。また、25年の見通しについても日量174万バレル増と、従来の日量178万バレル増から引き下げた。下方修正は2か月連続となる。
下方修正の理由は米中の景気懸念、特に中国の景気減速にある。OPECは24年の中国の石油需要の伸びについて、従来の日量70万バレルから65万バレルへ引き下げた。
需給の緩みが意識されNY原油先物価格(WTI)は10日、23年5月以来となる65ドル台へ下落する局面が見られた。一方、北海ブレント先物価格(Brent)は、21年12月以来となる70ドル割れとなった。
原油先物価格は景気の先行きを織り込んで動く。中東リスクがくすぶるなかでの原油価格の下落は、景気懸念の方がより強く意識されていることを示唆している。
原油先物価格の動向:週足 21年以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
米長期金利は3.6%台へ低下
原油先物価格の下落に連動し、米国の債券市場では10年債利回り(長期金利)が3.6%台まで低下してきた。
長期金利の低下は米国株の下支え要因である。しかし、それは景気懸念が意識されていない状況が前提となる。原油先物価格と同じく景気の先行きを織り込んで動く米金利低下の要因が景気懸念にある場合は、米国株の下落要因となろう。
そのアメリカ先行き先行きを考えるうえで、市場参加者は経済指標に注目するだろう。今日以降の重要指標で景気懸念を意識させる内容が続く場合は、米国市場では長期金利の低下と株安が同時に進行することが予想される。
米長期金利と原油先物価格の動向:日足 今年5月以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
8月CPIよりも雇用関連の経済指標が焦点に
今日は米国の8月消費者物価指数(CPI)が発表される。市場の予想では、インフレが鈍化の傾向を維持する見込みである。
しかし、インフレの鈍化については各市場の参加者も織り込んでいる。特に短期金融市場では、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)以降、連邦準備制度理事会(FRB)が緩和サイクルへ転じることを強く意識する状況にある。現時点では、12月末時点でFRBが政策金利を4.2%前後まで引き下げることを織り込んでいる。
米国 消費者物価指数(CPI):23年8月以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成 / 赤の棒グラフとドット:8月の市場予想
8月CPIがさらなるインフレの鈍化を示す場合、米長期金利への低下圧力が増すことが予想される。長期金利の低下は、主力の半導体株やハイテク株の下支え要因となろう。
しかし、上述した短期金融市場の織り込み度合い、そして現在のメインテーマが「インフレ」から「景気」にシフトしている状況も考えるならば、CPIよりも注視すべきは景気に関連する経済指標-雇用、企業活動そして個人消費に関連した経済指標となろう。
明日は週間の新規失業保険申請件数(雇用関連の経済指標)が発表される。直近のデータでは申請件数が減少の傾向にある。トレンドを示す4週移動平均も同じく低下基調へ転じている。失業保険継続受給者数の増加傾向が一服している状況も考えるならば、アメリカの労働市場は底堅さを保ちながら、緩やかな軟化の傾向にあると言えよう。
新規失業保険申請件数が労働市場の堅調さを示す場合は、景気懸念の後退を受け米国株は上昇する展開が予想される。一方、労働市場の軟化を示唆する内容となれば、米株安の要因として警戒したい。
米国 新規失業保険申請件数:23年9月以降
ブルームバーグのデータで筆者が作成
S&P500の短期見通し
S&P500種株価指数(S&P500)は現在、8月下旬以降の下落相場が一服し反発ムードにある。しかし50日線を下回っていること、10日線と21日線でデッドクロスの状況へ転じていること、MACDでも同じ状況にあることを考えるならば、株安を警戒する状況が続いている。
今日は、上で述べた8月CPIがS&P500の変動要因となろう。インフレの鈍化傾向が確認される場合は、上で述べた3つの移動平均線の攻防に注目したい。特に50日線を突破する場合は、この移動平均線の「サポート転換」が重要な焦点となろう。
50日線がサポートラインへ転換し、上述した新規失業保険申請件数が労働市場の堅調さを示唆する場合は、10日線と21日線を上方ブレイクする可能性が高まろう。
S&P500:日足 今年7月以降
出所:TradingView
上で述べたとおり、米国株のメインテーマは「インフレ」から「景気」へシフトしている。言い換えれば、インフレはもはやリスク要因とは考えられていない。ゆえに今後の物価指数で注視すべきは、インフレの粘着性が示される場合である。
景気懸念で原油先物価格の下落幅が拡大するなか、インフレの粘着性までが意識される場合、S&P500は9月6日の安値5,402レベルを視野に下落する展開が予想される。また、明日以降の経済指標で景気懸念が高まる場合、S&P500は5,300ポイントの維持が焦点として浮上しよう。
S&P500が5,300ポイントをトライするシグナルとして、2つの水準の攻防に注目したい。最初の水準は5,380ポイント前後である。このチャート水準は半値戻しにあたる。
2つめの水準が、5,320ポイント前後である。この水準を挟んでフィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準5,322ポイントとフィボナッチ・エクステンション61.8%の水準5,311ポイントが展開している。5,320ポイントの下方ブレイクは、5,300ポイントをトライするシグナルと想定しておきたい。
S&P500:1時間足 7月以降
出所:TradingView
なお、1時間足のRSIとMACDはともにゴールデンクロスへ転じている(上の1時間足チャート、緑矢印を参照)。8月CPIが主力の半導体とハイテク株の買い要因となれば、今日は50日線の突破とその維持が焦点となろう。
しかし、RSIが買われ過ぎの水準へ到達する局面で、S&P500が上で取り上げたレジスタンスの水準をトライする局面では反落を警戒したい。特にRSIとMACDでともにデッドクロスが確認される場合は、その可能性を強く意識したい。
デッドクロスへ転じるきっかけとして注目したいのが、上述した新規失業保険申請件数である。
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