景気懸念の後退でS&P500が22年11月以来の大幅高 目先の見通しは?リスク要因は?
7月の米ISM非製造業景気指数と新規失業保険申請件数(8月3日までの1週間)の内容を受け、景気と労働市場の冷え込みに対する過度の懸念が後退している。米国株は反発のムードを強めている。S&P500種株価指数(SPX)は100日線を突破し、さらに上値を目指すムードにある。今日以降の見通しは?注目のチャート水準は?
記事のポイント
・良好な米経済指標で景気と労働市場の冷え込みに対する懸念が後退
・しかし水面下では景気懸念がくすぶる、長期金利の動きも重要に
・S&P500は100日線を突破、次は5,400のトライに注目
・S&P500の反落局面では、5,200の維持が焦点となろう
S&P500、注目のチャート水準
上値の水準(レジスタンス)
・5,444:50日線
・5,400:レジスタンス転換、61.8%戻し
・5,342: 半値戻し
下値の水準(サポート)
・5,280:8日のサポート水準
・5,200:7~8日のサポート水準
・5,122:76.4%戻し
投資家の不安心理が後退
急速に低下するボラティリティ指数
8月5日をピークに、米国株のボラティリティ指数が急低下している。S&P500を対象にしたオプション取引のボラティリテを元に算出されるVIX指数(VIX、恐怖指数)は今週の5日に瞬間的に65.73まで急騰する局面が見られた。しかし現在は、23ポイント台まで急低下している。
VIX指数の動向:日足 年初来
そして、向こう3ヶ月の予想変動率(インプライド・ボラティリティ)を示すVIX3Mとの比を確認すると、0.8~1.0のレンジ内へ回帰している。
これらボラティリティ指数の動きは、投資家の不安心理が急速に後退していることを示唆している。その要因となったのが、良好な経済指標である。
VIXとVIX3M比の動向:日足 年初来
良好な経済指標で景気懸念が後退
米供給管理協会(ISM)が5日に発表した7月の非製造業景気指数は51.4と、市場予想の48.0および景気判断の分かれ目である「50」を上回った。
注目すべきは、雇用指数の改善である。7月の雇用は今年1月以来初めて拡大へ転じ、昨年9月以来の高水準「51.1」へと急速に改善した。アメリカでは労働者の約85%がサービス業に従事している。ゆえに、雇用増を伴うサービス業の活動拡大は、景気と労働市場の冷え込みに対する投資家の懸念を後退させた。
アメリカ ISM非製造業景気指数の動向:23年7月以降
そして、米労働省が8日に発表した週間の新規失業保険申請件数(季節調整済み)も労働市場の冷え込み対する投資家の懸念を後退させた。
8月3日までの新規失業保険申請件数は前週比で1.7万件減の23.3万件と、約11カ月ぶりの大幅減となった。市場予想は24.0万件だった。
4週移動平均は上昇トレンドにあり、過去1年間の平均を上回っている(下のチャート、赤ラインを参照)。この動きは、アメリカ労働市場が緩やかな軟化の傾向にあることを示唆している。
しかし、重要なのは市場の反応である。8日の米国市場が「株高・長期金利の上昇」で反応した状況を考えるならば、良好な経済指標が景気懸念をひとまず後退させている。
アメリカ 新規失業保険申請件数の動向:週次 23年7月以降
「不意打ちの下落」には要注意
良好な経済指標が株高の要因となっている今の状況は、見方を変えれば、景気の先行きに対する投資家の懸念が水面下でくすぶっていることを示唆している。
また、米債市場の動きも気になる。サービス業の活動拡大を示した7月ISM非製造業景気指数をきっかけに、アメリカの10年債利回り(以下では長期金利)が反発の基調にある。
現在は景気懸念がテーマとなっているため、「良好な経済指標→長期金利の上昇」は「良い金利の上昇」とアメリカの株式市場で捉えられいる。
しかし、長期金利の上昇が続けば、高PERのグロース株にとっては売り要因となろう(長期金利の上昇で割高感が高まるため)。
また、これからは「悪い米金利の上昇」にも警戒する必要がる。
今週7日に実施された10年債の入札では、応札倍率が2.32倍と2022年12月以来の低水準だった。今後の入札でも低調な内容が続けば、悪い金利の上昇が米株安の要因となるシナリオも警戒しておきたい。
水面下でくすぶる景気懸念と長期金利の上昇を考えるならば、米国株の上昇(反発)局面では、「不意打ちの下落」を常に警戒しておきたい。
アメリカ10年債利回り:1時間足 8月以降
出所:TradingView
S&P500の見通しとチャート分析
100日線を突破し5400が視野に
景気と労働市場の冷え込みの懸念が後退していることで、8日のS&P500(SPX)は前日比2.3%高と、2022年11月以来の伸び率となった。
昨日、レジスタンス転換のムードが漂っていた100日線を日足ローソク足の実体ベースで突破した(下のチャート、緑ラインを参照)。日足のMACDはゼロラインを下回る状況にあるが、低下が一服している。RSIではゴールデンクロスのムードにある。冒頭で述べたVIX(VIX)の低下も考えるならば、今日は上値トライを意識したい。
S&P500種株価指数のチャート:日足 今年4月以降
出所:TradingView
S&P500(SPX)が反発基調を維持する場合は、5,400ポイントのトライが焦点となろう。この水準は、サポートからレジタンスのラインへ転換する可能性がある。5,400ポイントは直近高安の61.8%水準(5,395)でもあるため、テクニカルの面でも相場の反発を止める可能性がある。
S&P500が5,400をトライするシグナルとして、半値戻しの水準5,342レベルの攻防に注目したい。7日以降、この水準がレジスタンスとして意識されている(下のチャート、赤矢印を参照)。ゆえに、S&P500がこの水準を完全に上方ブレイクすれば、5,400をトライする可能性が高まろう。
今日以降、S&P500が5,400の水準をも突破する場合は、50日線(8日時点で5,444レベル)を視野に上昇幅の拡大を予想する(上下のチャート、青ラインを参照)。
なお、45分足のストキャスティクスは買われ過ぎの水準へ到達している。S&P500が上で述べたレジスタンスの水準をトライする局面で、ストキャスティクスとRSIがともにデッドクロスを形成し低下基調へ転じる場合は、反落相場を想定しておきたい。
S&P500種株価指数:45分足 8月以降
出所:TradingView
反落局面での焦点は?
一方、上で述べたアメリカ長期金利の上昇が一転して株安となれば、S&P500(SPX)の100日線ブレイクは「だまし」となる展開が予想される。
S&P500の反落局面では、6日と7日の相場を下支えした5,200ポイントの維持が焦点となろう。8日の相場をサポートした5,280の下方ブレイクは、5,200をトライするシグナルと想定しておきたい(ともに下のチャート、黒矢印を参照)。
今日以降、S&P500が5,200を完全に下方ブレイクする場合は、フィボナッチ・リトレースメント76.4%の水準5,122レベルまでの反落を警戒したい(上の日足チャートを参照)。
S&P500種株価指数:45分足 8月以降
出所:TradingView
米国500のチャートポイント
上で述べた原市場の状況とテクニカルの攻防を踏まえ、IG証券が提供している株価指数CFD「米国500(原資産S&P500種株価指数)」のチャートポイントを以下にまとめた。
上値の水準(レジスタンス)
・5,400:レジスタンス転換を意識する水準
・5,384:61.8%戻し
・5,330前後:半値戻し、直近の戻り高値
下値の水準(サポート)
・5,213:半値戻し
・5,184:61.8%戻し
・5,150:76.4%戻し
米国500のチャート:日足 7月23日以降
出所:IGチャート
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